運動分子生物学研究室

 教授:藤井宣晴  准教授:眞鍋康子  助教:古市泰郎

 東京都立大学 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域

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研究室のメインテーマ
(4)骨格筋の高い再生能力の機序解明


(1)筋再生の主役:サテライト細胞

骨格筋細胞は、筋線維とも呼ばれるように、細長くて巨大な多核細胞である。筋線維は最終分化細胞で、みずから分裂・増殖することはできないため、自身が傷害を受けても修復することはできない。それをするのが、筋線維の外側、細胞膜表面に存在するサテライト細胞(筋衛星細胞とも呼ばれる)である(図13)。サテライト細胞は増殖能と筋への分化能を持った未分化細胞で、骨格筋の肥大、成長、および再生に必要とされている。普段は休止状態であるが、刺激を受けると増殖して、互いに融合し、筋線維に成る。このとき、一部の細胞は休止状態に戻って(自己複製)、再びサテライト細胞として次の損傷に備えるよう細胞数を保つ。


(2)サテライト細胞の機能評価

サテライト細胞の増殖能力と分化能力は、骨格筋の正常な再生、そして筋量を保つために重要である。また、自己複製能力はサテライト細胞の維持に必要である。このようなサテライト細胞の機能低下は、加齢や疾患による筋萎縮の原因の一つとされている。本研究室では、をマウス骨格筋からサテライト細胞を単離し、それを生体外(シャーレ)で筋管細胞にまで分化させるアッセイ系を確立した(26)(図14;熊本大学・小野悠介先生との共同研究)。サテライト細胞の機能調節に関わる遺伝子の発見とその分子機能の解明(27)、さらには、サテライト細胞の機能を高めるような薬剤や食品成分の開発を目指している。

 



(3)再生医療への応用

 筋萎縮や筋疾患の新たな治療方法として、筋細胞を生体に移植する再生医療の開発が進められている。サテライト細胞を生体外で大量に培養して、再び移植すれば、失われた筋量を回復させられると期待されている(図15)。しかし現実には、サテライト細胞をシャーレで培養すると次第に増殖能力を失うため、大量に増やすことは難しい。また、サテライト細胞以外に、線維芽細胞のような増殖活性の高い細胞が混入すると、それがサテライト細胞を駆逐してしまう問題があった。本研究室では、サテライト細胞を、生体外で純粋かつ大量に増殖培養できる培養液を開発している(2016年特許取得)。これは筋移植を目的とした再生医療に貢献するだけでなく、より生体に近い骨格筋の培養細胞ソースとして、骨格筋の基礎研究を推進させるツールとして期待できる。

文献

26. Manabe Y, Ogino S, Ito M, Furuichi Y, Takagi M, Yamada M, Goto-Inoue N, Ono Y, Fujii NL: Evaluation of an in vitro muscle contraction model in mouse primary cultured myotubes. Analytical biochemistry ,497, 36-38, 2016.

27. Sakamoto K, Furuichi Y, Yamamoto M, Takahashi M, Akimoto Y, Ishikawa T, Shimizu T, Fujimoto M, Takada-Watanabe A, Hayashi A, Mita Y, Manabe Y, Fujii NL, Ishibashi R, Maezawa Y, Betsholtz C, Yokote K, Takemoto M: R3hdml regulates satellite cell proliferation and differentiation. EMBO reports, e47957, 2019.23.   Fujii N, Boppart MD, Dufresne SD, Crowley PF, Jozsi AC, Sakamoto K, Kim S, Miyazaki H, Hirshman MF, Goodyear LJ.  Overexpression or ablatiation of JNK in skeletal muscle has no effect on glycogen synthase activity.  Am.J.Physiol. (Cell Physiol.) 287(1): C200-8. 2004



最近の発表論文


1.Hatazawa Y,Ono Yusuke,Fujii NL,Kamei Y,Ogawa Y,et al. Reduced Dnmt3a increases Gdf5 expression with suppressed satellite cell differentiation and impaired skeletal muscle regeneration. FASEB Journal, 32(3), 1452-1467. 2018年.

2.Mandai S,Furuichi Y,Fujii NL,Sohara E,Uchida Shinichi,et al. Loop diuretics affect skeletal myoblast differentiation and exercise-induced muscle hypertrophy. Scientific Reports, 2017年.