船でも飛行機でも水や空気などの媒体の中を移動するとき、その媒体を押しのけながら移動しなければならないため、抵抗力が生まれます。

波の抵抗を軽減する船首の形状
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波の抵抗を軽減する船首の形状

1. 移動物体が水や空気から受ける抵抗

ニュートンの抵抗法則では抵抗の大きさDは下式で示されます。

C_{D}は抵抗係数(抗力係数)と呼ばれる定数、ρは媒体の密度、Uは速度、Sは物体の流動方向の投影面積です。抵抗の大きさは速度の二乗に比例することから、自動車や飛行機などの高速移動の際に問題になりやすく、場合によっては自転車や水泳でも大きな影響を与えます。たとえば、自転車乗車時に前傾姿勢をとって面積Sを小さくすれば、抵抗Dは小さくなります。

2.抵抗を下げるための工夫

興味深いのは抵抗係数C_{D}です。この抵抗係数C_{D}は、先頭の形状を変えることで小さくすることができます。図1のような直方体が移動する場合も,角があると渦発生等によって抵抗が大きくなりがちですが,滑らかな流線形にすることで抵抗係数C_{D}を小さくすることができます。

図1 直方体が移動する場合の抵抗
進行方向の先端を流線型にすることで抵抗係数C_{D}は低下します(右)

高速で走行する自動車や新幹線などでは、このことを考慮した設計が行われ、新幹線の先頭車両ではカモノハシのくちばしを真似た形状になっています(図2)。

図2 自動車①と新幹線②
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図2 自動車①と新幹線②

火山から噴出する火山弾も紡錘状の形態をとることがあります(図3)。飛び出した際の温度が十分高くて溶岩のような流動性があれば、抵抗の大きい部分が変形し、空気抵抗C_{D}を下げる可能性があります。この場合、抵抗係数C_{D}の大きな火山弾よりも、より遠くまで飛ぶことができるようになります。

図3 紡錘形の火山弾
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図3 紡錘形の火山弾

水は空気より密度が高いため、水中を高速で移動する際の抵抗は大きくなります。ペンギンは図4のような体形をとり、高速で水中を移動できます。

図4 ペンギンの泳ぐ姿
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図4 ペンギンの泳ぐ姿

水上を移動する船は水を押しのける際の抵抗に加え、船の通過に伴う波を起こすために付加的な仕事が抵抗となります(造波抵抗)。これを小さくするための工夫として球状船首(バルバス・バウ)があります。船首に球状の出っ張りを設けることで、生じる波と通常の船首形状で起こる波が打消しあい、抵抗を小さくすることができます。この技術は戦艦大和に用いられ、最近でも大型タンカー等にも使われています。

図5 造波抵抗と球状船首
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図5 造波抵抗と球状船首

3.渦の発生

移動する物体に角部があると渦が発生しやすくなり、その渦の発生位置が交互に変わる場合には不要な振動を引き起こすことがあります(カルマン渦列)。1940年、アメリカ・ワシントン州のタコマナローズ橋では、強風で生じた渦の影響を受けて大きな振動を始め、ついに崩落してしまう事故がありました。

キーワード

形状 / 振動 / 流線型 / 流動抵抗 / 波