lll.郊外型都市賦活更新プロジェクト研究

・プロジェクトの成果と展望

我が国においては,戦前から戦後にかけて、歴史的な都市域の周囲に、巨大な団地に代表される大規模な計画市街地や、無秩序なスプロール市街地が形成されました。
これらの郊外型都市は、集合住宅の老朽化、居住者の高齢化、災害への不安などの問題を抱えています。その問題に対応するため、東京都内の郊外型都市から代表的なものを選び、下記の3つのサブプロジェクトを通して、賦活更新への道を探る総合的研究を進めました。

・具体的な研究成果

1. 多摩ニュータウンの再生・活性化に関する包括的研究
 ・ 団地居住高齢者の居住環境に関する研究
 ・ 多摩ニュータウン諏訪・永山地区における高齢者支援スペースに関する研究
2. 既存都市内在住高齢者の外出行動活性化を図る施策構築に関する研究
 ・ 都市部高齢者を対象とした外出行動特性の把握と、外出行動活性化を図る施策に関する研究
3. 郊外型都市の新たな価値を創出する都市建築空間の賦活技術の開発
 ・ 社会的ネットワークによる建築ストックのシェア型活用に関する研究

1.多摩ニュータウンの再生・活性化に関する包括的研究

団地居住高齢者の居住環境に関する研究

我が国最大のニュータウン、多摩ニュータウンは1971年に諏訪・永山住区で初期入居が実現して以来、半世紀近い歴史を刻んでいます。新規開発は終焉し、ストックマネージメントの段階に入りました。道路、上下水道等の都市インフラは優れて健全で、豊かに育った緑のネットワークに包まれ優れた居住環境を有しています。しかし、初期開発地区を中心に住宅の老朽化・居住者の高齢化が顕在化し始めており、その再生・活性化が課題です。
団地居住高齢者の居住実態を調査した結果によれば、多くが持続的な自立継続居住が可能な「元気高齢者」ですが、住宅設備の老朽化や住戸内外の段差などのバリアーが自立居住の障害になり始めています。リフォーム、リファイニング、建替えなどによる居住環境更新が求められます。

多摩ニュータウン(永山地区):入居開始当時と現在
多摩ニュータウン諏訪・永山住区の高齢者居住
既存2DK住戸のリファイニング案(多摩ニュータウン街づくり専門家会議)

多摩ニュータウン諏訪・永山地区における高齢者支援スペースに関する研究

多摩ニュータウン初期入居地区の諏訪・永山地区の一部では、高齢化率が40%に及び単身居住高齢者も増加していることから、高齢者の引きこもり・孤 立化、孤独死などが懸念されます。この中で、NPO、自治会などの地域住民の自立的な開設・運営による「高齢者の居場所づくり」の運動が進展し、これらが 10箇所に及ぶことが確認できました。こうした仕組みは今後の日本社会にとってひとつのモデルになり得ます。
これらは、提供サービスによって、場所貸し型、支援型、飲食提供型、町内型のタイプに分類できます。なかでも、コミュニティーカフェ「福祉亭」はその 草分け的な存在で、年間述べ1万人を超す利用があるなど、高齢者の見守り・支援拠点として貴重な活動を続けています。

高齢者支援スペース「福祉亭」

2.既存都市内在住高齢者の外出行動活性化を図る施策構築に関する研究

都市部高齢者を対象とした外出行動特性の把握と、外出行動活性化を図る施策に関する研究

この研究では、都市部における高齢者の外出行動の特性の把握と、外出行動を阻害する因子の抽出を目的として、東京都荒川区と共同で住民を対象とした2つの郵送調査を行いました。第1の調査では、高齢者自身に起因する因子の抽 出を行い、第2の調査では、都市の物理的環境に起因する因子の抽出を試みました。この結果に基づいて、公共交通機関の利用と外出行動の関係、都市整備のあり方等の検討を行いました。また、住民参加によるワークショップを開催し、住民と共同で都市整備のあり方について論議し、高齢者の外出行動の活性化に向けて求められる都市の整備方針の検討、高齢者支援プログラムの検討を 行いました。

高齢者の外出目的
まちづくりへの要望

3.郊外型都市の新たな価値を創出する都市建築空間の賦活技術の開発

社会的ネットワークによる建築ストックのシェア型活用に関する研究

この研究では、東京の郊外に急増する空き家や空き店舗等の低未利用不動産を地域のストックと捉え、地域社会に内在する社会的ネットワークでそれを再生する方法を考案し、その実践を行いました。具体的にはK市Y地区に存在する昭和30年代に建設された空き家を、地域のNPO等と協働して地域コミュニティの拠点として再生し、その計画、運営プロセスについて、他地域の類似事例等との比較研究を行いながら一つのモデルとして確立しました。また、大学院修士課程の学生を対象に、郊外都市の実態を調査し、再生のための提案を作成する演習を行いました。

再生された空き家
空き家再生を考えるワークショップの様子 

巨大都市郊外の建築と地域を繋いだ持続居住を支える空間系の構築

多摩地域を中心とした首都圏南西部郊外地域を対象として、建築計画、都市計画、建築設備学を横断して、持続居住を支える仕組みを研究しました。具体的なテーマと成果は次の通りです。
(1)巨大都市近郊の超高層集合住宅地区において、垂直移動を含めた徒歩圏内の生活利便性を評価しました。
(2)大都市周縁の大型商業施設の店舗と駐車場の空間構成を、地域の移動手段構成や駅からの距離から分析しました。
(3)住宅市街地の音やにおいの認知と、建物の構造などの空間構成要素の関係を明らかにしました。
(4)多摩ニュータウンにおける入浴施設環境と利用実態を把握しました。
(5)外食やテイクアウトなど食事機能を有する施設の立地を分析するモデルを提案しました。
(6)物販店などの地域施設へのアクセシ ビリティが、新設・撤退によってどう変化するかを、地理情報システムを用いて定量化しました。

自宅風呂の満足度と、入浴施設での行為、利用理由
世帯人数、年齢別の最小負荷となる食事施設の選択割合
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