セラピストにむけた情報発信



「幻肢」を知るための参考図書



2009年11月2日

幻肢とは,事故や手術などにより腕や脚を切断された患者が,失ってしまった腕の存在を実在するかのように感じたり,ないはずの四肢から耐え難い痛みを感じたりする症状です.今回は,幻肢とは何か,また幻肢の現象が私たちの脳や身体意識について何を物語るかについて,わかりやすく解説した本をご紹介します.

本多仁視 意識と無意識のサイエンス,福村出版,2000

意識と無意識をめぐる様々な問題の中の最初のトピックスとして,幻肢の現象を取りあげています.このことはおそらく,幻肢の現象が意識の問題を理解するうえで最も重要なトピックスの1つである,という著者の意図を反映しています.内容的にも,幻肢に苦しむ患者の主観的体験の紹介から,幻肢に関する理論的な説明,および関連する研究紹介などがバランスよく含まれており,改めてこの本の素晴らしさを堪能しました.


サンドラ・ブレイクスリーほか,脳の中の身体地図-ボディマップのおかげで,たいていのことがうまくいくわけ.インターシフト,2009

ラマチャンドランが,「幻肢は脳の体部位再現の問題として説明できる」と結論するにいたった過程について,ドキュメンタリータッチにわかりやすく説明しています.また幻肢以外にも,脳の体部位再現の問題として説明できる現象がわかりやすく紹介されており,脳の体部位再現を理解するうえで大変役に立ちます.


森岡周 リハビリテーションのための脳・神経科学入門,2005

先の2つの本が,幻肢の現象を何十ページもかけて説明をしているのと対照的に,森岡先生の本ではたった数ページで,幻肢のメカニズムについて説明をしています.非常に膨大な情報量を簡潔にまとめて説明するための一つのお手本として,大変参考になります.


普段このコーナーで本を紹介する際には,1冊の本についてできるだけ著者の執筆意図に沿って内容を紹介するようにしています.これに対して今回は,読者である私が今知りたいと思っている問題について,記載のある箇所のみを読みなおし,そこから著者の考えをボトムアップ的に(すなわち,要素の理解を通して全体像に迫るというアプローチで)理解しようというものです.

大学におりますと,講義準備の一環として,今回のような観点でこれまで読んだ本を読みなおす機会に恵まれます.初めて本を読んだときとは全く別の印象を持つことがあったり,読み飛ばしていた箇所に重要な示唆があったり...など,学生にとってわかりやすい授業や資料を作ることが,結果として自分に大きな財産となることがよくあります.今後も今回と同様の紹介通して,既にご紹介した本を別の角度からとらえなおし,その魅力について改めてご紹介できればと思います.



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