セラピストにむけた情報発信



報告:科学研究費 公開ワークショップ
「Experimental study on perception-action systems in real complex environments」



2009年10月2日

9月30日(水)に,福岡にて開催された科学研究費公開ワークショップ「Experimental study on perception-action systems in real complex environments」に参加し,発表をおこないました.ワークショップの詳細はこちらをご覧ください.

このワークショップは,本年度から4年間の研究として採択された科学研究費(基盤研究B)の研究課題,「複雑な実環境で形成される知覚-行動系の実験的研究」(研究代表者,九州大学教授・森周司)の成果公表の一環として開催されました.後ほどご紹介するように,この研究課題のメンバーに外国人が含まれていることから,全て英語による発表,質疑応答の形式でおこなわれました.

今回は,ワークショップの内容ではなく,この研究課題の概要についてご紹介したいと思います.この研究課題の趣旨は,知覚と行為が1つのシステムとして機能していることを,できるだけ実社会・実環境に即した形で明らかにする,ということにあります. この研究課題の最大の特徴は,3つの研究拠点・研究テーマから構成されており,それぞれのテーマに対して1名の国内研究者,国外研究者がチームとして取り組む,ということにあります.

1つ目のテーマは,「心理物理学」です.研究代表者の森先生,およびドイツ・ルネバーグ大学のFriedrich Müller先生が担当します.心理物理学という言葉は,あまり聞きなじみのない言葉かもしれませんが,非常に簡潔にいえば,数量的に測ることが困難な心理学的な問題(特に感覚知覚レベルの問題)を,物理的な量として数量化しようとする学問です.従来,心理物理学では非常に厳密な測定が求められることもあり,実験室的な環境でのみ検討がされていました.このチームの目標は,この心理物理学の手法を,スポーツや産業場面のストレスなど,実社会的な問題に効果的にあてはめて理解することにあります.

2つ目のテーマは「音楽と言語」です.熊本大学の関山薫先生,およびオランダ・ナイメーヘン大学の貞方マキ子先生が担当します.このチームは,「音楽に習熟することは,第2言語の習得に有利か?」という,非常に魅力的でチャレンジングなテーマに取り組もうとしています.音楽と言語はリズム生成など,いくつかの点で共通する機能を利用している可能性があるため,一方の習得が他方の習得を促進させるかもしれないという発想が成り立ちます.この研究課題の目玉ともいえる課題で,今からその結果が楽しみです.

3つ目のテーマは「歩行空間の身体性認知」です.私,樋口貴広と,ニューヨーク大学のLaurence Malouney先生が担当します.認知科学の領域では,上肢動作に関わる空間認知については様々な知見が次々と発表されていますが,歩行動作のように全身の移動を伴う動作中の空間認知の問題については,方法論的な難しさもあり,あまり多くのことが分かっていません.そこでこのチームでは,にある一定の制約を加えることで,歩行中の空間認知過程について明らかにする方法を考案し,検討していこうと考えています.

研究の視点がやや異なる研究者が一堂に会し,1つのチームとして仕事をする機会は,研究者としての自分の視野を広げるのに格好の機会です.今回のメンバーは皆さん大変優秀な方がそろっており,ワークショップにおける発表でも大いなる刺激を受けました.4年間でどのような知識が吸収できるのか,大変楽しみです.リハビリテーションにおいても有用な成果が出てきた場合には,積極的にこのコーナーで紹介したいと思います.


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