セラピストにむけた情報発信



階段昇降時の視線行動: Zietz et al. 2009



2009年9月7日

今回は,階段昇降時の視線行動に関する最近の研究をご紹介します.

Zietz et al. Gaze behavior of young and older adults during stair walking. Journal of Motor Behavior 41, 357-365, 2009

高齢者と若齢者が実験に参加し,実際の階段を使って実験をおこなっています.本来ならば,転倒歴のある高齢者や,段差につまづきやすい高齢者などのデータがとりたいところですが,実際の階段でこのような高齢者を対象に実験を行うのは,倫理的に実験があります.従って実験では,70歳前後の比較的健常な高齢者を対象として実験をおこなっています.

階段をのぼる場面と降りる場面のそれぞれに対して,視線行動の特徴を記述し,年齢による違いを比較しました.その結果,階段を降りる場面では,年齢による違いはほとんど見られませんでした.高齢者も若齢者も,足もとに近い場所(1-4ステップ先まで)に視線が集中していました.階段を降りる場面での階段の踏み外しは大変危険ですので,年齢にかかわらず,私たちは足もとに視線を向け,視覚的に安全を確認しながら階段を下りていることがわかります.

これに対して階段をのぼる場面では,年齢による違いが見られました.若齢者の場合,視線の向く先には個人差があり,かなり遠い先に視線を向けて歩く人も見られました.歩行スピードが高いほど,視線を遠くに向ける傾向が高いようです.この結果から,階段を上る際,特に歩行スピードが高い場合には,足もとの視覚情報を利用しなくても,安全に階段をのぼることができるようです.

一方,高齢者は階段をのぼる場面でも,階段を降りる場面と同様,足もとに近い場所(1-4ステップ先まで)に視線を集中させていることがわかりました.つまり,高齢者の場合には,階段を上る場面でも足もとの視覚情報が重要であることがわかります.リハビリのテキストの中には,一般に高齢者は若齢者に比べて視覚情報に依存して歩行する,といった記述が見られます.階段をのぼる場面での研究結果は,この記述と一致するものであり,視覚の重要性を物語っています.

一軒家に住んでいる高齢者の場合,洗濯かごや段ボールを両手に抱えて1階と2階を往復することがあるかもしれません.このような場面では足もとの視覚情報が洗濯かごや段ボールで遮られてしまうため,転倒の可能性が高まってしまいます.訪問でいらっしゃる患者さんのうち,転倒の危険性が高い患者さんについては,自宅内でこのような状況が多くないか,チェックされてはいかがでしょうか.



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