セラピストにむけた情報発信



学会発表報告:数値化しにくい研究内容にアプローチするための創意工夫



2009年8月31日

8月26-28日に日本体育学会(広島大学,広島)と日本心理学会(立命館大学,京都)が開催され,それぞれシンポジウム,ワークショップにて発表を行ってまいりました. 2つの学会会場間を移動する必要から,他の方々の発表を聞く時間がとれませんでしたので,日本心理学会でのワークショップから,臨床研究に対して高い意識を持たれているセラピストの皆様に参考となりそうな内容をご紹介いたします.

2つの学会におけるセッションのテーマはいずれも,研究内容そのものではなく,研究を行う上での創意工夫について話をする,というものでありました.体育学会では,大学院生や若手の研究者だけを対象として,オリジナルな研究の遂行する上での工夫や,通常の発表では語ることのできない苦悩などをフランクな雰囲気で紹介する,というものでありました.日本心理学会では,なかなか数値化することが難しい出来事を研究の俎上に乗せるための創意工夫について話をする,というものでありました.

私も含めた一般の研究者は,自分の研究成果の発表をおこなうことにのみ慣れていますので,それ以外のテーマに基づく発表は,実に発表者泣かせのテーマでありました.ただ,研究領域が異なる研究者が共通して持つ想いや苦悩が浮き彫りになるなど,普段とは異なる情報収集の場として,いずれのセッションも大変満足のできるものでありました.

提供された話題は,研究志向の高いセラピストの皆様にも参考になる情報が多くありました.

臨床の現場では,同じ障害を持つ患者さんに比較的共通して見られる特徴について,セラピストの方々が日常の臨床経験の中で発見し,どのような介入を行うかを決定するのに役立てています.私の研究室に所属している理学療法士の大学院生も,そのほとんどが,この経験に基づく介入の妥当性を科学的に理解する目的で,研究をおこなっています.

介入の効果を科学的に捉えようという姿勢は大変素晴らしいことですが,厳密に科学的な検証をおこなおうとするほど,検証する問題に制約が生まれ,実際に臨床で行っている介入とはかけ離れた問題を扱うことになる場合がほとんどです.研究者としてはそれで良いのですが,このような研究の制約が時にセラピストの方々を強く失望させることになります.

日本心理学会におけるワークショップのテーマは,こうした数値化しにくい現場の問題を,研究の俎上にのせるためにもっと研究者が努力しなくてはいけない,というテーマのもとに話題提供がなされました.たとえば発達障害の問題を扱っている立命館大学の矢藤先生は,臨床の現場でプロのカウンセラーがしばしば「気になる子(適応上の問題が疑われる子)」と表現する子供の問題行動について,できるだけ日常の自然な行動を妨げない形での実験的測定から見えてくる行動の問題があることについて,話をされました.リハビリの現場においても,通常の実験方法である「リハビリの現場の問題を実験室的な実験に合うテーマに置き換えていく」のではなく,「リハビリの現場で行っていることを,そのままの形で切り出せるような実験手法を考案する必要がある」といえます.

具体的にどのような実験手法が臨床現場にそのまま適応できるかについて,残念ながら現在の私には多くの知識がありません.しかしこのような視点を持ち続けながら,セラピストの皆様の様々な発表をお伺いすることで,有益なヒントを見つけることができないかと考えています.




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