セラピストにむけた情報発信



OU講座:リハビリテーションのための心理学を終えて



2009年8月10日

8月9日(日)に,オープンユニバーシティ講座として「リハビリテーションのための心理学」が実施されました.理学療法士,作業療法士の方を中心に,医療にかかわる様々な業種の方にお集まりいただきました.

講座では主としてコーチングの概念を中心にご紹介いたしました.コーチングとは一言でいえば,質問を通して相手の自発的な態度を引き出すコミュニケーションスキルです.私自身はコーチングの専門家ではありませんが,研究成果を臨床の現場で真に活かすためには,リハビリテーションに対して患者さんが自発的に取り組んでいただくことが不可欠であり,そのためにはコミュニケーションの重要性が無視できないと考えています.様々なコミュニケーションを通して患者さんとセラピストの間に確かな信頼関係が形成されることで,「この人の進めるリハビリなら実践してみても良い」と思っていただけることが,自発的な態度を引き出すのに必要と考えるからです.

授業ではコーチングの基礎概念や,傾聴・共感・質問に関する具体的な実践方法についてご紹介しました.また,2人1組でコーチングのロールプレイもおこなってもらいました.ロールプレイは,頭で理解したことを実際に実践できるかを試す上で格好の機会であります.これに加え,質問される側であるクライアント役を体験することも,重要な経験であります.コーチングの概念を学ぶことで,様々な質問を通してコミュニケーションを充実させたいという欲求が高まります.このこと自体は大変素晴らしいことですが,自分が必ずしも深く考えていないことに対して矢継ぎ早に質問を受けたり,質問に対する回答を考えている間,じっとコーチ役の人の視線を感じたりすることで,かえって居心地が悪くなる場合があります.参加者の皆様が,このクライアント役の際に感じる違和感を体験したいただくことで,教科書的な知識の適切な活用について深く考察してくだっていれば,大変うれしく思います.

このほか,コーチングに関連する心理学の話題として,対人印象の心理学や,言葉を介したコミュニケーションに伴う様々な問題(コミュニケーション・エラー)についてもご紹介しました.患者さんとセラピストの皆様との関係は,コミュニケーションだけでなく,セラピストの方々の表情の印象などによっても変わってきます.講座ではが意見に基づく印象形成に関する基礎知識をご紹介しました.また,非常に単純な言葉のメッセージであっても,その受け取り方は様々であるという事例をご紹介することで,自分の発言の意図が相手にきちんと伝わっているか,また相手の発言を自分が正確に理解しているかを確認することの重要性についても解説いたしました.

講義の合間にお話ししたセラピストの方々からは,臨床場面におけるコーチングの重要性を示唆する様々な事例をご紹介いただきました.大変貴重な情報であり,今後の講義において事例として活用させていただきたいと思います.

今年度のオープンユニバーシティ講座は,本講座をもって終了です.来年度も,セラピストの方々を対象とした講座を複数ご提供する予定です.引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます.




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