セラピストにむけた情報発信



本紹介:脳の中の身体地図




2009年7月30日

本日紹介する本は,ボディマップ,ボディスキーマ,ボディイメージなど,脳内における身体表象に関わる様々な話題を網羅している本です.

サンドラ・ブレイクスリーほか,脳の中の身体地図−ボディマップのおかげで,たいていのことがうまくいくわけ.インターシフト,2009

率直に言って,とても良い本です.身体・認知・脳の問題に関わるほぼ全ての重要なトピックスが網羅されています.またその語り口調も絶品であり,とても印象に残るフレーズが随所に登場します.私自身が最も印象残ったのは,冒頭(p18-19)の「知能は身体を必要とする」というセクションにあった,以下のフレーズです.

「身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではない.両者の関係は完璧なまでに互恵的だ.身体と脳はお互いのために存在している.」

内容的には,これまでも非常に多くの本や論文などで主張されていることです.しかし両者の関係を“互恵的”と表現するのは,とても簡潔で,かつ要点を得た素晴らしい表現ですね.この本では,この互恵的な関係を示す数多くのトピックスが登場いたします.

この本は,理論的な話,リハビリに結びつく臨床的な話,ビデオゲームや心霊現象などの俗っぽい話が,非常にバランスよくちりばめられており,あらゆる読者を飽きさせません.理論的な話といっても,そこには思わずニヤッと笑ってしまうようなユニークなエピソードが含まれています.たとえば,脳の中の身体地図と言えば,「ペンフィールドのホムンクルス」の話が登場することが想像に難くありません.この本でもホムンクルスに関する話題に一定のスペースが占められています.しかしそのエピソードには,ペンフィールドがホムンクルスの像を制作してもらうためにカントリー夫人を雇ったエピソードなど,教科書的事実をより印象深く記憶させてくれる話題が取り入れられています.

他にも,ミラーニューロン,脳の可塑性,運動イメージ,ブレインマシンインターフェイスなど,どれも著者独自の語り口調でわかりやすく語られています.

またこの本では,日本人の入来篤史氏がサルのニューロン活動をもと道具がボディマップに取り込まれる様相を示した一連の研究について,非常に多くのスペースを割いて説明をしています.日本人研究者の活動がこのように大きく取り上げられていることは,大変誇らしい気分です.改めて,入来篤史氏の一連の成果に敬意を表しながらよみすすめておりました.

リハビリテーションとの接点も随所に垣間見ることができます.たとえば運動イメージの章では,スポーツの名コーチが選手に運動イメージ(メンタルリハーサル)を適用することに関する記述があります.それによれば,メンタルリハーサルが推奨されるのは,必要とするスポーツスキルが熟達化し,特別に意識しなくても自動的に動作が遂行できてから,という指摘があります.まだ全身の協調関係がうまくいっていない時に運動イメージを導入するのは,あまりお薦めできないということです.このことはリハビリテーションにとっても大変示唆的です.患者の運動の回復度や,あるいは患者が保有している運動イメージを適切に把握しながらでないと,患者さん任せにやみくもにメンタルリハーサルをしてもらっても,運動学習を効果的にサポートしないことになります.

ボディワークに関して言及した箇所では,どのようなボディワークであれ,インストラクターたちは,患者のボディマップを強く意識した介入をしている,といった記述があります.これは私自身も先日参加した「ボディワークの臨床応用(運動連鎖アプローチ研究会)」で強く感じたことであり,大変共感できます.

このほか,痛み,ボディイメージとボディスキーマの違い,義肢に関するトピックスは,セラピストの方々にお薦めできる内容です.



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