セラピストにむけた情報発信



本紹介:最新脳科学で読み解く脳のしくみ




2009年7月8日

本日ご紹介する本は,脳に関するいわゆる雑学本です.非常に軽いタッチの読み物なのに,脳に関する重要な基礎知識が網羅されています.

サンドラ・アーモット他著,「最新脳科学で読み解く脳のしくみ」東洋経済,2009

著者の一人は,科学誌「ネイチャーニューロサイエンス」の編集長を務めていたこともある,優れた研究者です.この経歴を聞けば,非常に硬い内容の書物をイメージしますが,本書はこのイメージとは真逆の,非常に軽いタッチの本です.「脳について卓越した知識を持つ人が,酒を飲む席での盛り上げ話として脳の話をするなら,きっとこんな感じの内容になるのだろうな」というのが,この本を読んで一番最初に頭に浮かんだ感想です.

本全体の軽いイメージとは対照的に,各省の内容は各専門分野における重要知識を網羅しています.全体として冗談めいた表現が多いのですが,時折その冗談を効果的にするために,真顔で教科書的な事実を淡々と述べる,といった対比が随所に見てとれます.

また表現の背後に見え隠れする著者の主張は,いわゆる雑学本とは一線を画しています.役者あとがきには,この本の執筆意図が「脳をめぐる多くの“神話”の誤りを暴き,科学者以外の人たちに脳の真実を知ってもらうこと」であると記されています.終章「脳を鍛えるトレーニングのウソとホント」は,このような意図をダイレクトに反映しています.

とはいえ,この本の最大の魅力は「非常に軽いタッチで脳の知識を学ぶ」ことにあります.どうせ読まれるなら,テレビや音楽を楽しみながら雑誌感覚で読むことをお薦めします.第2章では記憶障害に関する話題が紹介されています.そこでは「何らかのきっかけで記憶を失った人が,ある衝撃的なきっかけで記憶を呼び覚まし,複雑な人間模様が展開される」といった典型的な映画やドラマが非現実的であることに触れつつ,研究者の視点から見て記憶障害を正しく描いている映画とそうでない映画のリストが紹介されています.

本全体がこのような冗談めいた話題提供のスタイルです.たまには肩の力を抜いて勉強してみても良いかもしれません.




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