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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#668 報告:日本体育・スポーツ・健康学会

2021年9月7-9日に,日本体育・スポーツ・健康学会(通商体育学会)第71回大会が開催されました。私は今年から新設された応用研究部会「研究福祉部門」で運営の業務に携わりましたので,その概要を報告します。

学会ならびに応用研究部会の概要については,こちらをご参照ください

 健康福祉研究部会のミッションは,「健康の保持増進及び福祉社会の実現につながる身体活動や体育・スポーツに関する科学的エビデンスを蓄積し,それに裏付けられた健康福祉対策の具現化に向けた取り組みを行う」ことにあります。ミッション達成のための3つの上位課題が設定されています。A:「健康増進につながる体力・運動の在り方をいかに考えるか(以下,健康増進)」,B:「認知機能の維持・改善に運動・スポーツはいかに貢献するか(以下,運動と認知)」,C:「運動不足(不活動)に伴う心身機能の低下をいかに予防するか(以下,不活動の予防)」です。

私は,上位課題B「運動と認知」に従事しています。近年,継続的運動が認知機能改善に有効であるという数多くの報告から,運動に対する認知症予防効果が強く期待されています。上位課題Bは,こうした研究の動向を踏まえて設定されています。

本年度のシンポジウムは,認知機能改善という目標に対して,体育・スポーツに携わる研究者がいかに貢献すべきなのかを考える機会として企画されました。現状の研究成果や社会還元可能性について,体育学会に属する3名の先生より,所属領域における運動の認知の問題についてお話しいただきました。話題提供者は,兵頭和樹先生(明治安田厚生事業団体力医学研究所),森司朗先生(鹿屋体育大学),水上勝義先生(筑波大学)でした。

兵頭和樹先生の講演タイトルは「高齢者の認知機能維持・向上に資する運動の役割」でした。運動生理学の立場から,運動が認知機能に及ぼす影響に関する最新情報をアップデートしていただく内容でした。誰もが気軽に実践できる「低強度運動」の効果を実証した研究や,コロナ渦での運動支援として注目される,自宅での運動に対するリモート支援の研究事例についてご紹介がありました。

森司朗先生の講演タイトルは,「運動と認知:子どもの運動発達の立場から」でありました。“運動と認知”と聞くと,高齢者支援を連想しがちです。しかし実際には,子供の発達などより広範囲な年齢にかかわる問題でもあります。そこで,子どもを対象とした身体活動と認知機能の研究としてどのような話題があるのかをご紹介いただきました。

水上勝義先生の講演タイトルは「認知症専門医の立場から体育分野に期待すること」でした。認知症に対する運動の効果について,基礎から応用にいたるまでの最新の知見をご紹介いただきました。その中の課題に対応する形で,認知症の専門家から見て,体育学会関係者にどのような情報提供を期待するのかについて,ご提言いただきました。

応用研究部会の活動は3年間を1つの区切りとしており,あと2年間は同様の試みを行います。今年度の経験を生かして,次年度はさらに多くの方々に関心を持ってもらう各種企画を準備しようと思います。

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