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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#655 DCD学術集会「不器用な子にとってのスポーツの意味」

4月24-25日に,第4回日本DCD学会学術集会が開催されました。学会全体のテーマは,「DCDとスポーツ」です。私はシンポジウム「不器用な子どもにとってのスポーツの意味」において話題提供をしましたので,その一部を紹介します。


DCDとはDevelopmental Coordination Disorderの略であり,発達性協調運動症とも訳されます。脳性麻痺のような神経疾患や,運動に支障を与えうる知覚障害がないにもかかわらず,日常生活に支障をきたす協調運動の障害を指します。シンポジウムのタイトルにあるように,いわゆる不器用な子の運動障害を指しています。スポーツが苦手というだけでなく,手先の器用さの問題も含みます。

この学会大会は,本来であれば1年前に開催予定でしたが,コロナ対応により延期となり,1年越しの開催となりました。延期はもちろん残念ではありましたが,私にとってみれば,この話題提供に対して1年以上の準備期間を頂けた感覚もあり,真剣に準備に取り組んできました。

このシンポジウムでは,3名の話題提供者が「不器用な子どもにとってのスポーツの意味」という同一内容に対して,異なる観点から発表するというスタイルをとりました。1人が医学的視点(黒川駿哉氏,慶應義塾大学医学部精神・神経科)」,1人が学術的視点(樋口),1人が実践的視点(篠原里奈氏,ジュニアクラブ蔵本)という役割分担です。

私が担当する学術的視点については,まずは私が心理学・認知科学の専門であることから,心理学・認知科学からの話題提供になることを説明しました。そのうえで,「不器用な子どもにとってのスポーツの意味」という問いを微調整し,「運動が得意ではない子どもにとって,スポーツが意味ある活動であるためには,どのような条件を備えるべきか?」という問いに答えるための内容としました。

もし提供するスポーツが,「最適な行為のスタイルを探索でき,予期・予測の能力を高められる」活動となるならば,DCDの子たちにも意味がある活動といえるというのが,私からのかつ論でした。話題提供時間が15分とわずかでしたが,「スポーツの早期教育」「最適な行為の探索」「感覚予期」という3つの話題に基づき,上記結論に至った根拠を説明しました。

私にとって今回の話題提供は,単なる1つの発表を超える意味がありました。これまで研究室としてスポーツに関わる議論を行ってきましたが,それらはいずれも,スポーツ選手の支援,すなわち,高みを目指す人たちの支援に関するものがほとんどでした。これに対して,今回の話題は,運動に対して苦手意識のある子たちの支援を考えるものです。この話題の重要性は,今回の仕事がなければ,真に理解することができませんでした。

今回の話題提供は,本学会の理事であり,私が長年お世話になっている,北洋輔氏(一橋大学)のご紹介により実現しました。北洋輔先生には,本学における人間健康科学副専攻コースの専門科目の授業をご担当いただくなど,多くの活動でお世話になっています。このようなチャンスを頂けたことに,あらためて感謝申し上げる次第です。

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