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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#647 鳥取県理学療法士会研修会「丁寧すぎるは諸刃の剣:運動支援の心理学」

2月13日に,令和2年度第1回鳥取県理学療法士会研修会にて講師を担当しました。「丁寧すぎるは諸刃の剣:運動支援の心理学」というタイトルのもと,2時間にわたり話題提供をいたしました。オンライン開催となりましたが,私にとって実りある時間でした。その概要をご紹介します。

鳥取県理学療法士会の主催者の皆様とは,2018年12月に開催された第18 回鳥取県理学療法士学会1年半ほど前に学会でお招きいただいて以来のご縁です。今回は,運動支援とコミュニケーションに関する話題提供についてリクエストを頂きました。

今回の問題提起は,「良かれと思って動作の一つ一つを丁寧に言葉で指導するスタイルの支援が,かえって運動の(再)学習の妨げになることもある」というものでした。動作を分析する立場から見れば,対象者の動きを観察するだけで,動きの良し悪しを細かく言語化できます。こうした言語化は,評価をしたりアプローチ方法を考えたりする上では有用でしょう。しかし,言語化された動きの特徴を,そのまま対象者に全てぶつけるようなアプローチの場合,かえって運動の学習にはマイナスかもしれないという事について,関連する情報を紹介しました。

特に,最近の運動学習の考え方では,対象者個人にとっての理想の動きを探索させること(exploration)に重きを置いた発想が多く見受けられます。こうした発想に基づけば,理想とすべき運動を言語化して1つの動きの形に押し込むよりは,動きの目標を与えた後は,それに至る動きは個々の対象者が試行錯誤で見いだしていく,という事が有益となります。そうした発想に立ついくつかの考え方を,できるだけわかりやすく紹介したつもりです。

今回の研修会は,オンラインならではの良さがいくつもありました。研修会は県士会のイベントでしたが,23都道府県からの参加がありました。ZOOMの機能を使って情報を頂いたところ,オンラインだからこそ参加できた方が7割でした。また,多くの方がチャットを積極的に使ってくださったおかげで,どの情報に対してどのような意見や疑問をもたれているのかを,つぶさに理解できました。疑問に対する即時的な対応ができるなど,対面とは異なる進行で理解を促すことができました。様々な制限下でオンライン形式の新たな価値を見いだすことができたことは,良い収穫です。

本講演の機会を作ってくださった,県士会の金崎純子先生はじめ,スタッフの方々へこころから感謝申し上げます。



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