セラピストにむけた情報発信



視線と身体の協調に着目した脳卒中患者の歩行障害:
Lamontagne et al. 2007




2009年5月15日

前回に引き続き,モントリオールのMcGill大学にいるLamontagne氏らがおこなった脳卒中患者の歩行に関する研究として,歩行中の方向転換に関する論文をご紹介します.

Lamontagne et al. Stroke affects the coordination of gaze and posture during preplanned turns while walking. Neurorehabil Neural Repair 21,62-67


歩行中に移動方向を変えるような状況で大きくバランスを崩すケースが,高齢者や脳卒中患者などでしばしば報告されています.バランスを崩す要因には,筋力的な要因も含めて複数あると考えられます.その中でLamontagne et alが着目したのは,方向転換に先行する視線や頭部回旋の障害です. 

歩行中に移動方向を変える場面では,体幹の回旋に先行して,視線と頭部が移動方向に回旋される動作が見られます.健常者の場合,視線・頭部・体幹が規則的な順序と時間関係を保って回旋していきます.体幹に先行して視線が移動することには,もちろん視覚情報の獲得,すなわち,移動しようとする空間の状況を事前に把握しておくことも重要なのでしょう.これに加えて最近では,運動性の要因,すなわち視線を移動方向に向けるための眼球や頭部の動きの情報が,体幹の回旋角度などを決定する際に利用されるのではないかと考えられています.いずれの要因にせよ,視線行動が歩行に重要な役割を果たしていることを示しています.

Lamontagne et alは,脳卒中患者が歩行中の方向転換時にバランスを崩すのは,この視線・頭部・体幹の協調関係が損なわれているためではないかと考え,実験をおこないました.その結果,脳卒中患者の場合,視線や頭部の動きが先行するのではなく,体幹の回旋と”同時に”出てくる傾向が見られました.従って,視線や頭部の動きが体幹のスムーズな回旋を引き出していないことが,バランスを崩す要因の1つといえるかもしれません.

視線に着目するリハビリテーションは,私たちの研究室でも大変注目しており,できるだけ早いうちにオリジナルの研究を紹介できればと考えている次第です.





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