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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#609 自身の動きを言葉にすることの学習効果(Kawasaki et al. 2019)

研究室の修了生である川崎翼氏が,運動学習に関する論文を発表しました。動きの内容を言葉にして説明することが,練習効果の保持に寄与したという実験報告です。概要を紹介します。

Kawasaki T et al. Efficacy of verbally describing one’s own body movement in motor skill acquisition. Brain Sci 9, 356; doi:10.3390/brainsci9120356, 2019

右利きの若齢健常者36名が,左手掌内で2個のボールを素早く回転させる課題に取り組みました。1分間でできるだけ多く回すこと,またボールを落とさないことが求められました。半数の参加者は2分間にわたり,ボールをうまく回すためのコツについて説明することが求められました(言語化群)。残りの半数は雑誌の音読が求められました。実験の結果,ボール回しの回数,ならびにボールを落とす回数のいずれにおいても,言語化群のほうが,練習効果が保持されるという結果が得られました。

川崎氏らは言語化がもつ効果を,運動イメージがもつ運動学習効果と関連するのではないかと解釈しました。自身の動きを言語化するためには,記憶の想起(recall)や内言語(inner speech)が関わります。これら2つのプロセスは運動をイメージする際にも関わります。運動をイメージすることで運動実行系が賦活することが多く指摘されていますが,それと類似の作用が言語化にはあるのではないかと,川崎氏らは考えています。

研究室出身者が,実践に応用しやすい研究を続けている姿を頼もしく思います。今後も川崎氏の活躍を応援したいと思います。



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