セラピストにむけた情報発信



本紹介「心は実験できるか」



2009年4月10日

今回ご紹介する本は,心理学における古典的でとても有名な10の研究を題材として,研究の時代背景や研究者の人柄,また時に悪名高い研究として扱われたことに対する当事者たちの苦悩などをまとめたものです.

ローレン・スレイター,岩坂彰(訳)「心は実験できるか−20世紀心理学実験物語」紀伊国屋書店,2005

取り上げられている研究は,スキナーのオペラント条件づけ,ミルグラムの電気ショック実験,ハーローのアカゲザル実験,ロボトミー実験など,いずれも心理学の歴史の中で,(良くも悪くも)非常に大きなインパクトを与えた研究ばかりです.

セラピストの皆さまの中には,心理学の知識を習得することで,たとえば患者さんとのコミュニケーションをより円滑にしたいなど,臨床場面への応用を考えていらっしゃる方も多いだろうと推察いたします.このような期待は,栄養士や薬剤師,システムエンジニアなど,高度な専門的知識を一般の人にわかりやすく説明する必要がある専門職の人に共通する思いであります.

ところが,そのような思いで心理学の標準的なテキストを見ると,難しい理論ばかりが立ち並び,実践に役立つ情報が少ないと落胆されてしまうことも少なくありません.実はそれらの理論のほとんどは,実践的に役に立つ情報を非常に多く含んでいます.しかし,学問・研究としての心理学では,その研究が学術的・理論的に人間の心の仕組みの解明にどのような貢献をしたかということが重要視されるため,実践場面に役に立つ情報をエピソード的に紹介することが困難です.

このため,難解な理論から実践的知識を学ぶためには,ある種の解説書が必要となります.今回ご紹介した本は,このような解説書の1つとして有用です.内容はややエンターテインメント性も高く,その受け止め方は読者によって異なるとも思いましたが,一般の人でも聞いたことがあるような有名な心理学の研究をバランスよく紹介しているという意味では,お薦めできます.

今年度の首都大学東京オープンユニバーシティでは,8月に「セラピストのための心理学入門」という講座を提供いたします.コーチングという技法を主たる題材として,臨床場面でのコミュニケーションに役立ちそうな情報を提供できればと考えています.研究上,コーチングの問題は私の専門外でありますが,私の研究のバックグラウンドである心理学に関して,臨床の現場で必要とされる知識を提供したいという思いから,やや“背伸び”をして講座を提供することにした次第です.多くの方々のご参加をお待ちしております.



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