セラピストにむけた情報発信



野球のバッターの優れた知覚とその状況依存性:Kida et al 2005



2009年4月6日

前回,体操選手が優れた姿勢制御の特性を示すのは,体操競技で訓練する姿勢に近い姿勢課題でのみであり,それ以外の姿勢課題には波及しないという研究報告をご紹介しました.この結果は,運動学習の成果が訓練状況に限定してみられるという可能性を示すものであり,リハビリテーションにおける運動機能回復(再学習)においても,日常生活をく意識した場面での訓練が必要ではないかという主張をサポートするものです.

類似した報告は,他のスポーツ競技選手においても確認されていますので,今回はその一部として,日本人研究者によるの論文をご紹介いたします.

Kida N. et al. Intensive baseball practice improves the Go/Nogo reaction time, but not the simple reaction time. Cogn Brain Res 22, 257-264

野球のバッターは,ボールの球種やコースによって,ボールを打つべきか,あるいは見送るべきかを瞬時に判断する必要があります.この研究では,コンピュータ上に呈示される刺激に対して素早く反応するという反応時間課題を用いて,バッターの優れた知覚情報処理について検討しました.

その結果,バッターは呈示された刺激の種類に応じて反応すべきか(Go),あるいは反応を止めるべきか(No-Go)を判断する反応時間課題(Go/No-Go課題)において,優れた成績を示しました.一方,単に刺激が呈示されたら素早く反応するという単純反応時間課題の場合,バッターの成績は他のスポーツ競技選手と違いがみられませんでした.これらの結果から,バッターの優れた知覚情報処理は,野球で要求される場面に近い状況でのみ発揮されるということがいえます.

この研究は,来田宣幸先生(現在,京都工芸繊維大学)が,京都大学の大学院生時代におこなったものです.実験に参加した人数が200人強と,一般的な実験室実験に比べて非常に多い参加者を対象としています.実験室実験では一人一人の参加者に対して精密な実験をおこなう必要がありますので,これだけ多くの参加者のデータを取るためには,実に膨大な時間がかかることは,想像に難くありません.得られた実験結果もさることながら,スピードや業績数が問われる時代の中で,1つの問題に集中して徹底的に検討する姿勢からも,多くのことを学べる研究です.



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