セラピストにむけた情報発信



体操選手に学ぶ立位姿勢制御2:Asseman et al 2008



2009年4月1日

体操選手は,複雑な身体姿勢をとりながら片足でバランスを維持したり,宙返り後に静止姿勢を維持したりと,非常に困難な状況の中でバランスを維持できます.

半年ほど前,体操選手が日常場面での立位姿勢制御でも優れた特性を示すことを明らかにした研究をご紹介いたしました.今回ご紹介するのはこれとは異なる結果,すなわち,体操選手が優れた姿勢制御の特性を示すのは,体操競技で訓練する姿勢に近い姿勢課題でのみであり,それ以外の姿勢課題には波及しないことを示した研究です.

Asseman FB et al. Are there specific conditions for which expertise in gymnastics could have an effect on postural control and performance? Gait Pos 27, 76-81

実験対象者は,体操競技選手,およびその他のスポーツ選手でした.実験課題は両足立位,片足立位の2種類であり,それぞれ開眼条件と閉眼条件のもとで姿勢動揺の量を測定しました.両足立位よりも片足が立位のほうが,また開眼条件よりも閉眼条件のほうが,難易度の高い課題条件となります.体操選手は床演技で片足Y字バランスをおこなうなど,開眼条件での片足立位の訓練をおこなっています.従って,体操選手は片足・開眼条件でのみ優れた能力を発揮するのか,それとも様々な条件で優れた能力を発揮するのかが,研究の焦点となります.

実験の結果,体操選手の姿勢動揺が少なかったのは,片足・開眼条件での場合のみでした.片足立位であっても,閉眼条件ならば,その成績は他のスポーツ選手と差がありませんでした.これらの結果は,体操選手の優れた姿勢制御能力が,体操場面で訓練された姿勢でのみ発揮されることを示しています.

ある課題に対する練習成果が,別の課題をおこなったときにも波及するかという問題は,学習の転移あるいは汎化の問題といわれ,運動学習研究の中でも常に議論の対象となっています.体操選手の事例に限定しても矛盾する結論が数多く見られますので,一筋縄にはいかない問題です.

もしAssemanらが示したように,運動学習の成果が訓練状況に限定してみられると考えるならば,リハビリテーションにおける運動機能回復(再学習)では,日常生活の場面を非常に強く意識した場面での訓練が必要ということになります.このようなアイディアは,運動に対する環境の役割の重要性を示す生体心理学の立場からも,しばしば提唱されることです.

スポーツ選手を対象とした研究では,様々な競技種目においてAssemanらと同じ結論を示す論文がありますので,今後ともそのいくつかをご紹介していきたいと思います.臨床場面における環境設定について,職場で議論する際の参考になれば幸いです.




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