セラピストにむけた情報発信



高確率のフリースロー成功率はフリースローラインのおかげ?
視覚的文脈情報の効果(Stöckel et al., 2013)




2018年11月5日
前回に引き続き,膨大な練習量によって磨かれた”特別なスキル(especial skills)”に関する研究の紹介です。バスケットボール選手が高確率でフリースローを決めることができるのは,距離に見合った打ち方を覚えているというよりも,フリースローラインからシュートするという視覚的文脈のおかげかもしれないと報告した論文です。

Stöckel T et al., The influence of visual contextual information on the emergence of the especial skill in basketball. J Sport Exerc Psychol 35, 536-541, 2013

Especial skills論文では,バスケットのフリースローが多く研究対象になっています。この研究では,通常のフリースロー条件のほかに,ゴールの位置を通常よりも30㎝前,および30㎝後ろに移動した条件を設定して,フリースロー成功率を測定しました。もし選手が距離に見合った打ち方を覚えているのならば,ゴールの位置にかかわらず,フリースローとして練習している距離(4.23m)での成功率が一番高いはずです。

その結果,驚くべきことにフリースロー成功率が最も高かったのは,ゴールの位置にかかわらず,フリースローラインからシュートした場合でした。この結果は,普段からフリースローとして練習している距離(4.23m)が大事なのではなく,普段練習している視覚環境と同じであることが大事である可能性を示しています。

もしこの実験結果が一般化できるならば,フリースローの成功率が高いのは,4.23mの距離を投げるのに必要な力発揮や投げ方を覚えているというよりは,慣れている視覚環境の中では高い精度でシュートが調整できるから,ということになります。

フリースローラインから打つ恩恵は,フリースローラインのおかげでゴール(リム)との距離感が知覚しやすくなることにあるのではないかと,著者らは解釈しました。シュートを打つ最中にはフリースローラインは視野にも入らない状況ですので,シュートに入る前の準備段階で距離知覚を助かるのではないか,といった考察がなされています。


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