セラピストにむけた情報発信



狭い空間を通り抜ける際の知覚運動制御1−私たちの研究室の動向



2009年3月17日

私たちの研究室では,混雑した駅のホームのように,狭い空間を安全に通りぬける行動に関する研究を継続的におこなっています.時に「転倒予防のような重要な問題とは直接的に結びつかないテーマにどうして固執するのか?」というご指摘をいただくこともあります.しかし私たちは,この研究テーマが「空間を知覚・認知し,適切に行動を制御する人間の素晴らしさ」を理解するのに有用であると考え,研究を重ねております.また,このテーマが臨床現場の問題とも決して無関係ではないだろうと考え,様々な実験を計画しています.

 これまでのところ,「車いす利用中の‘車両感覚’」1, 2, 3, 「買い物袋を手に持っても,狭い空間でぶつからずに歩くことのできる素晴らしさ」2,「狭い空間を通り抜ける際の視線行動」(投稿中),などに着目して,実験をおこなってきました.また,歩行中の様々な障害物回避動作の研究を総合的に検討して,歩行中の空間認知がどのような特徴を持つのかを検討したレビュー論文をまとめました.4,5

 これらの研究成果とリハビリテーションの接点について,自信を持って話ができるようになるまでには,もっと多くの実証研究が必要です.幸い,良い大学院生や研究仲間に恵まれ,そのような目標に向けた土台作りが少しずつ進んでおります.できるだけ早いうちにその成果を披露できるよう,グループ全体で努力していきたいと考えております.

最近では,これらの研究成果を引用したうえで,新たな成果を報告している論文も散見されるようになってきました.次回は,これらの関連研究について紹介する予定です.


引用文献
  1. Higuchi, T.,Takada, H., Matsuura, Y., & Imanaka, K. (2004). Visual estimation ofspatial requirements for locomotion in novice wheelchair users. J Exp Psychol: Appl 10, 55-66

  2. Higuchi, T., Cinelli, M. E.., Greig, M. A. & Patla, A. E. (2006). Locomotion through apertures when wider space is necessary: Adaptation to altered bodily states. Exp Brain Res 175, 50-59

  3. Higuchi T, Hatano N, Soma K, & Imanaka K (2009) Perception of spatial requirements for wheelchair locomotion in experienced users with tetraplegia. J Physiol Anthropol 28, 15-21

  4. 樋口貴広, 今中國泰 (2005). 空間知覚がもたらす歩行の協調性.バイオメカニクス研究,9, 160-169

  5. Higuchi, T., Imanaka, K. & Patla, A. E. (2006). Action-oriented representation of peripersonal and extrapersonal space: Insights from manual and locomotor actions. Jap Psycholl Res 48, 126-140.


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