セラピストにむけた情報発信



会話をすると立ち止まってしまう原因:歩行の意識化・言語化?
(Young et al. 2016)




2018年6月18日
転倒危険性の高い高齢者は,デュアルタスク状況下で歩くのが苦手だと言われています。象徴的な現象が,歩行中に話しかけられると(回答が必要な質問をされると),歩くのをやめて話をするという現象です。Stop walking while talkingの頭文字を取り,SWWTと称します。

今回ご紹介する論文は,SWWTは単に加齢による認知機能の低下で起きるのではなく,歩行を意識的に(歩容の詳細を言語化するように)コントロールしようとする人に顕著である可能性を示した論文です。

Young WR et al. Examining links between anxiety, reinvestment and walking when talking by older adults during adaptive gait. Exp Brain Res 234, 161-172, 2016.

24名の高齢者のうち,SWWTの兆候が見られたのは12名でした。参加者は進行方向を切り替えながら歩く歩行課題を行いました。歩行中の不安度を操作するため,歩行路を囲むエリアに細工をしました。これにより,「万が一歩行路からはみ出して歩くと,はみ出したエリアが沈みこんでバランスを崩しやすくなる」状況を作り,不安を喚起しました。

以下,結果の概要です。多岐にわたる情報のうち,主要なものだけを説明します。

  • 質問紙調査の結果,SWWTの兆候が見られた高齢者は,歩行を意識的にコントロールしようとすること(例:「どちらの足から歩行通路に入ったか)がわかりました。一方,歩行の様子をモニターしようとする傾向は,必ずしも高くありませんでした。
  • SWWTの兆候が見られた高齢者は,歩行路をよく覚えていませんでした。意識や注意が歩行そのものに向いていた結果,環境のことをよく覚えていないと推察されます。
  • 不安喚起がなされると,歩行を意識的・言語的にコントロールする傾向が高まりました。
  • SWWTの兆候が見られた高齢者は,全般的な認知機能が低下しているわけではありませんでした(MoCAによる測定)。

これらの結果から,著者はSWWTの原因を,「歩行の意識的・言語的コントロールと会話における言語的処理がバッティングしてしまうこと」と解釈しました。

SWWTの兆候を示す高齢者は,全般的な認知機能は低下していませんでした。また歩行の様子をモニターしようとする傾向も高くありませんでした。つまり,SWWTと関連があったのは,歩行を意識的・言語的にコントロールしようとする傾向のみでした。このことから,ワーキングメモリーのうち,言語的な処理に関わる資源を歩行と会話で取り合いすることになるため,立ち止まざるを得ないという解釈をしました。

またこの研究では,不安が喚起されると歩行を意識的・言語的にコントロールしようとする傾向が高まる可能性も示唆しました。不安喚起がSWWTを引き起こすといったデータはありませんが,意識的・言語的な歩行のコントロールにより,SWWTが起こる可能性は高まると考えられます。


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