セラピストにむけた情報発信



中心視野/周辺視野を制限した時の方向転換動作(Murray et al. 2014)




2018年1月15日
歩行中の方向転換動作においては,視覚に強く依存した制御がなされると考えられています。今回ご紹介するのは,視野制限メガネを使うことで,中心視野もしくは周辺視野を制限した場合の方向転換動作について検討した研究です。結果的には,中心視野/周辺視野いずれを制限した場合でも,その影響はわずかであり,方向転換動作が正しく行われることを報告した論文です。

Murray NG et al. Simulated visual field loss does not alter turning coordination in healthy young adults. J Mot Behav 46, 423-431, 2014

方向転換動作をする際の全身の動きを詳細に観察してみると,方向転換後の進行方向へ眼球,頭部,胸部,骨盤の順に規則的に回旋がされることがわかっています。このことから,方向転換動作は眼球・頭部の回旋がきっかけとして起こっていること,また,視覚に強く依存するからこそ,眼球・頭部をいち早く進行方向へ向けておくのだろうという理解がなされています。

視覚情報の中でも,極めて解像度の高い中心視野は,主としてオプティカルフローの情報を知覚するために用いられ,広い視野をカバーしている周辺視野は,環境と身体の相対関係を知覚するため(自己中心座標に基づく環境情報を知覚するため)に用いられると考えられています。

この論文の著者らは,中心視野と周辺視野を制限することの影響を調べることで,どちらの視野情報が方向転換動作により重要なのかを調べることにしました。

15名の若齢成人を対象に実験を行ったところ,中心視野/周辺視野のいずれを制限しても,方向転換の際に見られる頭部→胸部→骨盤の規則的な回旋が見られることがわかりました。この結果は,少なくとも若齢成人の場合,中心視野/周辺視野のどちらが制限されても,利用できる視覚情報だけで正確に方向転換動作をコントロールできることを示唆しています。

著者らは,中心視野/周辺視野制限時のほんのわずかな違いにも着目しています。中心視野を制限した場合,わずかながら回旋行動に遅延が見られました。一方,周辺視野を制限した場合,試行間のばらつきがやや増えました。このことから,著者らは,中心視野/周辺視野にも届く方向転換動作にはわずかな機能の違いはあるのだろうと考察しています。


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