セラピストにむけた情報発信



状況判断能力(アフォーダンス知覚能力)の発達的変化
(Ishak et al. 2014)
 



2013年12月24日

私たちが環境と身体の関係性に応じて適切な行為を選択する能力を,アフォーダンス知覚と呼ぶことがあります.広義の状況判断能力のことです.

今回ご紹介するのは,このアフォーダンス知覚が月齢・年齢によってどのように発達していくのかを,リーチング動作を対象に検証したものです.

Ishak et al. Perception-action development from infants to adults: perceiving affordances for reaching through openings. J Exp Develop Psychol 117, 92-105, 2014.

実験に参加した幼児はリーチング動作により,狭い穴の向こうにあるおもちゃやお菓子をとろうとしました.この際,もし穴が狭すぎて手が通り抜けられない場合に,リーチせずに動作をやめることができるかを検討しました.

この研究の最大の売りは,幼児として5つの月齢・年齢層(16か月,22か月,34か月,5歳,7歳)を対象にしていることです.様々な月齢・年齢の幼児の成績を.成人(コントロール)の成績と比較することで,アフォーダンス知覚がいつごろどのように発達するのかを記述することができます.

実験の結果,狭い穴に対して成人と同様にリーチしなくなるのは,7歳の幼児のみでした.つまり統計的には,16カ月の赤ん坊も5歳の幼児もその知覚能力に差がないことになります.著者自身も考察で述べているように,5歳の幼児の能力がそこまで発達していないという結果は驚きの結果といます.

また16カ月から5歳までの幼児の場合,リーチするかどうかを決断する前に穴を触るという行為が頻繁に見られました.これに対して7歳の幼児では触る行為は少なく,成人と同様,視覚的にリーチするかどうかを判断しました.このようにアフォーダンス知覚を行う際の拠り所となる感覚情報の変化が,発達的な変化の背景にあるかもしれないと著者は解説しています.

これまで説明してきた結果は,判断の“正確性”に関する結果です.今度は見方を変えて,判断の“再現性”,つまり同じ大きさの穴に対していつも同じ判断がなされるかという観点で結果を見てみます.すると,対象群の間に有意差は見られませんでした.つまり16カ月の赤ん坊であっても,成人並みの再現性があったと言えます.

こうした再現性の結果から,決して赤ん坊や幼児はでたらめに判断しているのではなく,何らかの明確な基準に基づいてアフォーダンス知覚を行っているのだろうと推測できます.ただその基準が必ずしも正確ではなく,おそらくは遊びの経験を通して徐々にその基準が洗練されていくものと思います.


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