セラピストにむけた情報発信



講演:NPO法人Players主催,「運動支援の心理学-知覚・認知を活かす」
 



2013年12月17日

12月15日に,鹿児島県のNPO法人「Players」の講演イベントにて講師を担当いたしました.

「Players」さんは,理学療法士の高木真一先生を中心として,子供のスポーツ支援をサポートするために立ち上げられた法人です.当日は「運動支援の心理学:知覚・認知を活かす」というテーマのもと,5時間にわたり講演をいたしました.

今回はわがままを言って,ゲスト講師をお呼びしました.鹿屋体育大学のスポーツ心理学研究者,中本浩揮氏です.

中本さんには2つの話題をお話しいただきました.第1の話題は,運動支援者が観察を通して対象者の運動を評価する力に関する話題でした.

ベテランの支援者にもなると,対象者の動きを一目見ただけで,その動きにどんな問題があるかを瞬時に見極められることがあります.中本氏はこうした“見極める力”は,観察経験だけで向上するのではなく,運動経験によっても向上すると解説しました.

そうした根拠の一例として,中本氏は「バスケットのシュート動作だけを見てシュートの成功/不成功を判断する課題」を対象とした研究事例を紹介されました.

現役のバスケット選手は,バスケットのコーチや解説者のように観察経験が非常に豊富な人よりも,シュート動作から正確に予測できます(Aglioti et al. 2008 Nature Neurosci).さらに一般対象者が映像を観察する際,映像に同期する形で手首を動かすと,予測率が上がるとのことです(中本氏の業績).こうした成果はいずれも,長期的な運動経験もしくは観察時の運動が,見極める力を向上させることを示唆しています.

中本はこうした背景には,ミラーニューロンシステムなどのように,知覚することと運動することの両者に共通する認知神経基盤が関わっているのだろうと解説しました.

第2の話題は,運動指導に有益な言語指導に関する話題でした.中本氏は,運動指導に有益な言葉として,運動中に得られる運動感覚の言語化に着目しました.

通常,運動支援者が観察を通して得られる対象者の動きの特徴は,極めて視覚的なものです.たとえばピッチャーの動きを見て「ひじが下がっている」「リリースポイントが悪い」と感じるのは,すべて視覚的な情報に基づく評価です.

中本氏は,こうした視覚的な評価を言葉にして選手にフィードバックしても,選手にはその内容が実感できない場合があると解説しました.

そのうえで,視覚的な情報から「対象者がどのような運動感覚を感じているのか」を感じること,また正しい運動に付随する運動感覚に基づいて指導してあげることが有益であると主張しました.この主張に基づけば,長嶋茂雄さん流に「バシッと,グイッと」といった感覚的表現で指導することが,時に理論的な説明よりも選手の感性に訴えることになります.

さらに中本氏の主張に基づけば,セラピストの皆様が対象者の動きを見極める際に,対象者の動きを真似してみて,その際の運動感覚に基づいて言葉がけの内容を考えていくことが,有益なアプローチの一つとなります.



中本氏は私の大切な研究仲間です.中本氏にとって,セラピストの方々を対象として講演するのは初めての機会でありましたが,会場の方々の心をつかむ非常に良い話題提供であったと感じました.

また何かの機会に中本先生とのコラボ企画を考えていきたいと思います.



(メインページへ戻る)