セラピストにむけた情報発信



隙間通過時に見られるパーキンソン病患者のすくみ足:
イメージ能力が関連?(Cohen et al. 2011
 



2013年12月9日

前回に引き続き,パーキンソン病のすくみ足について隙間通過場面を対象として検討した課題です.歩行と姿勢制御の分野で著名なFay Horak女史のグループの研究です.

Cohen RG et al. Freezing of gait is associated with a mismatch between imagery and motor execution in narrow doorways, not with failure to judge doorway passability. Neuropsychologia 49, 3981-3988, 2011

一般にパーキンソン病患者を対象に隙間通過実験を行う場合,主たる測定対象は,隙間にアプローチしてから通り抜けるまでの行動特性(たとえば速度の急激な減速)です.

これに対して今回の研究で著者らが着目したのは,隙間を通過する行為を”イメージすること”の正確性でした.

一般に,運動イメージを想起している最中には,補足運動野に活動が見られる場合が多くあります.補足運動野は,大脳基底核からの出力が向かう主要な脳部位の1つです.このことから,大脳基底核の変性疾患であるパーキンソン病患者が,運動イメージに問題を抱えているかもしれないと,著者らは考えました.

実験参加者は,日常生活においてすくみ足の現象が見られるパーキンソン病患者と,すくみ足の現象が見られないパーキンソン病患者,そして健常者でした.

「隙間を通過する行為のイメージの正確性」を測定するため,参加者に対して,隙間の手前1.5m手前から歩行を開始し,隙間を通過するまでを正確にイメージするように教示しました.イメージ上での通過所要時間を測定し,それが実際の歩行とどの程度ずれているかを測定しました.隙間の幅は,非常に狭いものから(身体幅の80%の幅)ある程度広いものまで(身体幅の130%の幅)設定しました.

実験の結果,日常生活においてすくみ足の現象が見られるパーキンソン患者でのみ,隙間幅が狭い場合(身体幅の100%未満)に,イメージ上の通過所要時間が実際の時間よりも約26%早くなることがわかりました.逆にすくみ足行動が出てこないパーキンソン病患者の場合,ほぼ正確にイメージすることができました.

またこの実験では,「提示された隙間幅は接触することなく通過できるか」をYes-no形式で回答する課題(知覚判断課題)も合わせて検討しました.その結果,パーキンソン病患者は健常者よりもかなり広い隙間幅(身体幅の130%程度)において,通過できるかどうかを判別していることがわかりました.ただこうした傾向は日常的にすくみ足が見られる患者でも,すくみ足が見られない患者でも違いはありませんでした.

以上の結果に基づき著者らは,仮説の通り,日常的にすくみ足の症状を呈するパーキンソン病患者は,隙間を通過する運動イメージが正確でないと結論付けました.

従来,狭い隙間幅に対してすくみ足が生じる理由は,隙間幅に関する視覚情報への過剰反応といった意味合いで説明される場合が多いように思います.これに対してこの研究では,知覚判断課題の成績は日常的なすくみ足出現の有無にかかわらず,パーキンソン病患者の成績が悪いことが示されました.

このことから著者らは,必ずしも隙間幅に関する視覚情報への過剰反応はすくみ足の直接的な原因ではないのではないかと推察しました.


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