セラピストにむけた情報発信



Quiet eye:運動開始前の視線固定に意味はあるか?
(Klostermann et al. 2013)
 



2013年11月18日

私たちの視線は通常,1秒間に2-3回程度の頻度で移動(サッカード)と停留を繰り返します.ただし運動行為の遂行中,行為の成否を左右するような重要な局面では,視線が通常よりも長く,空間のある一点に停留することがあります.

こうした視線停留の現象をQuiet eyeと呼ぶことがあります.もともとスポーツ熟練者の視線の測定から見つかった現象です.最近では歩行のような日常動作においても,Quiet eyeの現象がみられることが報告されています.

本日ご紹介するのは,Quiet eyeの長さを実験的に操作する工夫を行うことで(すなわち,Quiet eyeの長さを独立変数として実験することで),Quiet eyeが確かに正確な動作遂行に有益な現象であることを示した研究です.スイス人研究者による報告です.

Klostermann A et al. The “Quiet eye” and motor performance: Task demands matter!
J Exp Psychol: Hum Percept Perform 39, 1270-1278, 2013.

この研究ではボールの下手投げによる的当て課題を用いて,2つの実験を行いました.

的は大型スクリーンのある位置に所定の時間呈示される仕組みになっていました.これにより,参加者が的に視線を向ける時間を操作しました.さらに,参加者は音に合わせて下手投げを行うことが求められました.こうすることで,動作開始前のQuiet eyeの時間を正確に操作したわけです.

2つの実験の結果,ターゲットに対する視線停留時間が長い条件のほうが,短い条件よりも的当ての成績が正確であることがわかりました.この結果は,視線停留の長さが的当ての成績に確かに影響することを示しています.

さらに,視線停留時間が長くなることによって的当てのパフォーマンスがよくなるのは,的が登場する位置が事前に予測できないという高難易度条件でのみあることもわかりました.的の登場する位置が常に予測可能な条件では,視線停留時間が長いことの効果は得られませんでした.

この結果から著者らは,Quiet eyeが動作遂行に意味を持つのは,それが動作遂行のために必要な視覚情報の処理を最適化するためであろうと結論付けました.

予測可能な低難易度条件では,視覚情報処理に過度に依存せずとも,ターゲットの位置の記憶に基づいて行為が遂行できるため,Quiet eyeの機能が意味をなさないと考えたわけです.



この研究の最大の成果は,視線停留の長さそのものを独立変数として扱う実験パラダイムを考案したことにあります.

Quiet eyeの存在を示唆する研究が非常に多くありますが,それらの研究のほとんどは,優れた運動遂行にQuiet eyeが“付随現象として”観察されることを示したものです.つまり,視線停留が長いことが運動パフォーマンスを向上させるのか,それとも逆に運動パフォーマンスが良いことが,視線を安定させるのか(例えば優れたパフォーマンス時は姿勢も安定しており,視線も含めて動きが少なくなるといった可能性)については,明確な説明ができませんでした.

こうした問題を解決するためには,Quiet eyeを独立変数にするパラダイムが有益であり,著者らはそれに成功しました.こうした成果は,「ターゲットに対してしっかりと視線を向ける」といった介入を行うことで,運動パフォーマンスが向上する可能性を示唆しています

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