セラピストにむけた情報発信



日本スポーツ心理学会第40回大会
ワークショップ「運動学習の最新理論」
 



2013年11月5日

11月2日にスポーツ心理学会にて,運動学習に関するワークショップが開催されました.私は指定討論者としてメンバーに加わりました.

ワークショップでは最初に阿部匡樹氏(東京大学)から,ワークショップの概要の説明がありました.運動学習を理論的に考える上で有効な方法のひとつに,計算論的アプローチがあることに触れ,その基本的概念を紹介してくださいました.

その後,2名の先生からの話題提供がありました.

井沢淳氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)は,運動学習の計算理論として,運動制御・学習の計算論的研究の最近のコンセンサスについて解説してくださいました.運動学習の計算理論といえば,川人光男氏の提唱以来,脈々とした研究の歴史があります.井沢氏は,その中で予測(正確には予測誤差駆動型学習)というコンポーネントと,最適化(報酬駆動型学習記憶)というコンポ―ネットが重要であることについて解説されたうえで,最近の研究の発展についてご紹介くださいました.

瀧山健氏(東京大学)は,運動学習の新しい統一理論として,これまでの計算論的運動学習モデルに,Prospective error(脳は運動する前から結果を予測している)の情報を盛り込んだモデルを提案しました.話題提供の中では,このモデルが既存の運動学習モデル(ベイズ型適応モデル,メタ学習モデル,階層モデル)の要素を含み,かつこれらの問題点を克服できることについて,研究事例に基づき開設されました.

私からの指定討論として,「明日の現場に活かそうとしているスポーツ指導者,リハビリ従事者などに伝えたいメッセージは何ですか?」という質問を出しました.

例えスポーツなど実践領域への応用を目指した研究であっても,研究はあくまで研究としての正しさ(妥当性,信頼性など)や合理性に基づき進めていきます.このため,基礎研究の成果を運動支援の現場のニーズに合うように直接“翻訳”すると,必ずしも研究者と実践的支援者の双方が満足する情報交換ができないことがあります.ワークショップでは,運動スキルの習得に最適なフィードバック頻度の話題や,運動イメージに関する話題を具体的事例として紹介しながら,こうした問題を整理しつつ,お二人の先生へ冒頭の質問をいたしました.

このワークショップは,宮崎真氏(山口大学),門田浩二(大阪大学),阿部匡樹氏(東京大学)により企画され,木島章文氏(山梨大学)の司会に基づき進行されました.私も含めて同世代組のアイディアに基づくワークショップでしたが,予想を超える人数の方々にご参加いただき,刺激的な時間を過ごすことができました.


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