セラピストにむけた情報発信



第69回日本生理人類学会大会
シンポジウム「ヒトの随意運動制御メカニズムの解明」
 



2013年10月28日

10月26-27日に,同志社大学京田辺キャンパスにて第69回日本生理人類学会大会が開催されました.

青木朋子氏(熊本県立大学)のお誘いにより,シンポジウム「ヒトの随意運動制御メカニズムの解明」にて話題提供を行う機会を頂戴いたしました.

私の話題提供では,「随意運動の知覚運動制御:移動行動の予期的制御」というタイトルのもと,移動行動の制御が将来を見越した予期的制御に特徴づけられるということについて,隙間通過行動に関する一連の研究,ならびにブラインドテニスに関する研究に基づいて解説いたしました.

今回のシンポジウムでは,他のメンバーの方々の発表が秀逸であり,いずれも大変惹きこまれました.

藤井進也氏(学術振興会特別研究員・トロント大学)は,ドラマーの両手協調に関する制御研究の一端を紹介されました.対象者は,世界最速ドラマーを競う競技にて,1分間に1247回もドラムをたたくことができる天才的ドラマーでした.1秒間に20回のペース(両手でたたいて1周期とカウントすると,10HZ)でドラムをたたいている計算であり,これを1分間続けることができるというのは,まさに神業です.

発表では,主として手首表面筋電図の活動記録から,この素早い動作の中でも綺麗な主動筋と拮抗筋の交代活動が確認できることや,筋活動の立ち上がり速度やスパイク頻度に最速の秘密がある可能性を指摘していました.

オーガナイザーでもある青木朋子氏は,指の動きの制御にアプローチするための研究として,2指間の最速タッピング課題を用いた一連の研究例をご紹介くださいました.2指間タッピングでは,人差し指を含むタッピングが比較的簡単であり,逆に薬指を含むタッピングが比較的難しいといった特性があります.青木氏はこうした特性が,加齢やトレーニングによる影響をどの程度受けるのかについて話題提供を行いました.

高齢者を対象とした研究では,高齢者と若齢者の違いは,1指だけのタッピングよりも2指タッピングのほうが顕著にみられること(すなわちそれだけ加齢の効果が顕著であること)や,一般の参加者であっても,2週間程度のトレーニングでタッピング速度を有意に早くすることができることなどが報告されました.

荒牧勇氏(中京大学)は,両手間同時操作の運動制御に関する話題提供を行いました.鏡像動作(鏡に映るように左右対称に両手を動かす動作,ここでは左右の同じ指同士を動かす動作を対象)と非鏡像動作(ここでは違う指同士を動かす動作)のそれぞれを行っている際の脳活動の違いについて,fMRIを用いた研究に基づき解説されました.一般に,鏡像動作は誰でも簡単に制御できますが,非鏡像動作はとても難しく,一定以上の速度で制御しようとすると,鏡像動作に引き込まれてしまうことがあります.

荒牧氏はまず,鏡像動作時は非鏡像動作時よりも,運動関連脳領域の活動性が有意に低いことを示しました.この結果から,「鏡像動作が簡単なのは,一方の手のコントローラが楽できるため」と比ゆ的に説明されました.また非鏡像動作の難易度には実に大きな個人差がありましたが,荒牧氏はこの個人差と大脳基底核の被殻の活動に相関関係があることを明らかにしました.この結果から,大脳基底核の活動が示す,いわば潜在的な負担感が,非鏡像動作のパフォーマンスの良し悪しを予測できる可能性があると説明されました.

少し若い藤井氏も含めて,世代が比較的近いメンバーで構成されたこともあり,みなシンポジウムを通して良い刺激を与え合うことができたと実感しました.素敵な発表の数々に,しばし余韻に浸れるような悦びすらありました.

こうした機会を与えてくださいました大会長の福岡義之氏(同志社大学)に深く感謝申し上げます.また別のシンポジウムのオーガナイザーであった中澤公孝氏(東京大学),および特別講演をなされた柴田智広氏(奈良先端科学技術大)とは,多くの有益な示唆をいただきました.合わせて感謝申し上げます.


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