セラピストにむけた情報発信



極細の通路を歩行する際の視線行動:バレエダンサーと一般者の比較
(Panchuk et al. 2011)

 


2013年8月20日

今回ご紹介するのは,通路の幅がたった2.5㎝と非常に狭い通路を歩く際の視線行動について,バレエダンサーと一般者の比較です.スポーツ選手の視線行動の測定で著名なカナダのVickers氏が共著者になっています.

Panchuk D et al. Effect of narrowing the base of support on the gait, gaze and quiet eye of elite ballet dancers and controls. Cogn Process 12, 267-276, 2011

この研究では,5mの歩行通路のうち後半の3mについて,幅10㎝または2.5㎝の通路を歩いている際の着地精度,および視線行動について測定しました.幅2.5㎝の通路といえば,着地の仕方をよほど工夫しないと足がはみ出てしまうほど狭い幅です.こうした中でバレエダンサーのパフォーマンスがどの程度で優れているかを検討するのが,本研究の目的です.

実験の結果,着地精度そのものは期待に反してバレエダンサーが正確というわけではありませんでした.しかし歩行する際の視線の位置については,バレエダンサーと一般参加者の間に有意な違いが見られました.

バレエダンサーは非常に狭い通路を歩行する際にも,視線をある程度前方へ向けて歩いていました.しかしながら一般参加者は,足元に視線を向けながら歩行していました.

これらの結果から,着地精度そのものには両者の違いはなくとも,その着地をある程度正確にコントロールできる訓練がなされているかどうかにより,視覚情報の必要性が異なるものといえます.

こうした結果は,私たちはこれまで明らかにしてきた,転倒リスクの高い高齢者や脳卒中片麻痺患者が,歩行中に視線を足元に向けがちな傾向とも共通する現象のように思います.

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