セラピストにむけた情報発信



隙間通過行動に関する最近の研究紹介(1)
隙間通過に対する意図が通過様式に及ぼす影響

 


2013年8月5日

2回連続の企画として,隙間通過行動に関してごく最近報告された論文を紹介します.1つはオランダのグループによる研究,もう一つはニューヨーク大学のKaren Adolph氏の研究室による研究です.

実はこれら2つの論文のうち,1つは私が査読を担当し,もう1つが研究仲間であるイリノイ州立大学のJeffrey B. Wagman氏が査読を担当しました.

お互いがお互いの査読した論文の魅力を伝えあうことで,関連研究の動向を確認しあっています.こうした関係の中で知識体系を増やしていけるのは,研究者としてとても理想的なことです.

【研究1】隙間通過に対する意図が通過様式に及ぼす影響

Keizer A et al. Walking through aperture: do you know what you are duing during body-scaled action? Perception 42, 583-585, 2013

ややわかりにくい日本語タイトルをつけてしまいました.端的に言えばこの研究では,「安全な通過を最重要目的として隙間を通過すること」は,隙間の通過の仕方に影響を与えているだろうか?ということを調べています.

この意図の影響を検討するための比較対象として,参加者の半数は,「別の目的に専念している状況下で隙間を通過する場合」,つまり安全に通過するかどうかが最重要目的とは認識されていない場合)で隙間通過を行いました.

2つの意図条件に割り当てられた参加者グループの隙間通過行動を比較した結果,安全な通過自体を明確に意図している前者のグループのほうが,一定の隙間幅に対する通過時の回旋角度が大きく,またその開始タイミングが早いことがわかりました.

その一方,隙間幅が身体幅の何倍になったら体幹の回旋が始まるかという点については,条件による違いは見られませんでした.

これらの結果を考慮すると,「目の前の隙間を安全に通過するのに,体幹の回旋が必要か?」という判断については,たとえ別の目的に専念している状況であっても正確に判断できると言えます.その一方,安全な通過自体を明確に意図している場合は,接触回避が確実になされるように,早めに対象行動を開始し,安全マージンを大きくとるのだろうと考えられます.

この研究が比較対象として用いた,「隙間通過自体を明確に意図させない状況下での行動様式の測定」というのは,試みとしては新しく,また面白い内容でありました.結果的に見られた行動へのインパクトはわずかではありますが,こうした細かい研究の積み重ねから得られる事実が,関連研究を志すものとしては大変重要な知見になります.

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