セラピストにむけた情報発信



自著近刊本 「運動支援の心理学:知覚と心理を活かす」(三輪書店)

 


2013年6月10日

この度2冊目の本として,「運動支援の心理学:知覚と心理を活かす」を三輪書店様より出版いたしました.今回はその内容について概要をご説明する次第です.

この本は大きく3つのコンセプトに基づいて執筆をいたしました(詳細は本の冒頭「はじめに」をご参照ください).

第1のコンセプトは,心理学が運動支援にもたらす有用性について,特に知覚・認知に関する知識の貢献を解説することです.

一般的な心理学のイメージといえば,臨床心理やカウンセリングなどの知識になると思います.しかし学問としての心理学の知識体系はより多様です.またその多様な知識が運動支援に役に立ちえます.本書ではそうした一端をご紹介するため,私の専門である知覚認知の知識の貢献を中心にまとめました.

第2のコンセプトは,前作「身体運動学:知覚・認知からのメッセージ」よりも,具体的な運動支援のヒントを呈示することです.

前作出版から4年半の間,講演等を通して非常に多くのセラピストの方々と交流ができました.またこの交流を通して,研究の基礎知識と結びつきそうな臨床のご経験についても,数多く伺うことができました.本の中でこうしたお話を引用させていただくことで,少しでも読者の方に研究と運動支援の接点を感じていただく努力をいたしました.

第3のコンセプトは,コミュニケーションに関する話題を織り込むことです.

どんなにエビデンスのある手法があったとしても,運動支援の場面で対象者がそれを積極的に実践してくれなければ,結局は対象者の問題改善にはつながりません.こうした状況では,支援者と対象者の人としてのつながりや,コミュニケーションが大きく影響すると考えています.私自身はコミュニケーションの問題について完全な素人ですが,良書の紹介などを通して,専門的な知識を学ぶための情報の糸口をご提供したいと考えました.

本は6章構成となっています.
  • 第1章 感覚・知覚
    • 第1節 視覚
      第2節 身体感覚
  • 第2章 視覚と運動 
    • 第1節 身体運動に利用される視覚情報 
    • 第2節 視線と身体運動:歩行の観点から
  • 第3章 注意
    • 第1節 選択的注意
    • 第2節 分割的注意
  • 第4章 運動のイメージと観察
    • 第1節 運動イメージ
    • 第2節 運動の観察
  • 第5章 運動の学習
    • 第1節 運動学習の考え方
    • 第2節 効果的な運動学習を目指して
     
  • 第6章 コミュニケーション
    • 第1節 コミュニケーションの心理学
    • 第2節 対話コミュニケーション
個人的には3章2節「分割的注意」と,5章「運動の学習」の内容に満足しています.これらの内容について,今後また講演等の機会にセラピストの方々と議論できれば嬉しいです.


私がこの本を執筆するにあたって一番悩んだのが,前作に紹介した情報をどの程度再掲して良いのか,という点でした.

私自身の考え方がこの4年半で大きく変わったわけではありません.よって書き手の立場としては,前作の内容を再掲した上でその応用的側面を示すスタイルが,最も書きやすいスタイルでした.一方,このスタイルをとることで「前作と代わり映えしない」と批判されないかという懸念がありました.

この点について,前作から引き続きご担当いただいた濱田亮宏様(現,医学通信社)にご意見を伺ったところ,「全ての読者が前作を読んでいるわけではないので,再掲の懸念など気にせずに,1つの作品として正しいものを書くのがよい」という趣旨のご助言をいただきました.このご助言は本当にありがたく,執筆の迷いが消えてスムーズに書くことができました.

この本の執筆に踏み切ったのは,2冊目の本を出すタイミングに関する濱田様からのご助言によるところが大きくあります.心より感謝申し上げます.

また濱田様ご退職後から出版に至るまでの数か月間,本の編集を直接ご担当くださったのが,代表取締役社長の青山智様でした.

代表取締役社長として全国を飛び回る激務の中,1つの本を手掛ける作業にまでご尽力いただいたことについては,いくら感謝しても足りないほどです.青山様は,細かい点について私の裁量に任せてくださるスタイルで編集をしてくださいました.これは執筆者としては大変光栄なことであり,本の完成に関わる仕事のモチベーションを高めてくださいました.

お二人のご尽力,ならびに関連スタッフの皆様に心より感謝いたします.

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