セラピストにむけた情報発信



模倣動作のサポートに効果的な手本動作の視点:Watanabe et al. 2013

 


2013年5月21日

今回ご紹介するのは,私の研究室で社会人院生として研究をしている理学療法士,渡辺塁氏の最新の研究業績です.

Watanabe R. et al. Imitation behavior is sensitive to visual perspective of the model: an fMRI study, Exp Brain Res, DOI: 10.1007/s00221-013-3548-7, 2013.

この研究の主目的は,「運動支援者が支援対象者の目の前で,手本動作として目標とする動作を実際におこなう際,どのような視点で対象者に動作を見てもらうべきであろうか」という問題でした.

手本動作を示す視点は大きく分けて,対象者と同じ向きから見せる視点(1人称的視点)と見本動作を対象者の対面から呈示する視点(3人称的視点)との2種類の視点があります.

渡辺氏は若齢健常者を対象として,手本動作と同じ指をできるだけ素早く上げるという課題における反応の素早さや脳活動が,手本動作の視点によりどのような影響を受けるかを,fMRIを用いて検討しました.参加者は右手で反応したため,手本動作を右手で見せた場合を一致条件,そうでない場合を不一致条件としました.

実験の結果,反応の素早さについては,自分の指の配列と手本動作の指の配列とが空間的に似ている映像(すなわち1人称一致視点と3人称不一致視点)が早いという結果となりました.

これに対してfMRIを用いて測定した脳活動に着目してみると,1人称で提示した2つの条件のほうが,腹側運動前野や縁上回,補足運動野など,ミラーニューロンシステムも含めた運動関連脳領域に有意な活動が見られることがわかりました.従って, 1人称視点で手本動作を観察してもらうほうが,その動作を脳内でシミュレートすることが容易であり,少なくとも長期的にみれば運動学習に有益でなはないのかというのが,渡辺氏の考察です.

指導教官の立場から見れば,得られた結果に対する考察については様々な検討の余地があるものの,見かけの行動現象とは必ずしも一致しない形で得られた脳活動の結果から1つの意味あるメッセージを出す努力をしたという意味では,大学院生として良い訓練をしてくれたと感じています.

本研究の遂行のうち特にfMRIに関する多くの知識は,共同研究者の一人である,本学大学院フロンティアヘルスサイエンス領域の菊池吉晃教授よりご指導いただきました.ここに記して謝意を表します.


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