セラピストにむけた情報発信



歩行中の下方周辺視野の機能:下肢動作の微調整
(Graci et al. 2010)

 


2013年5月14日

前回と同様,歩行中の下方周辺視野の機能に関する研究をご紹介します.やはりイギリスのJohn Buckley氏のグループによる研究成果です.

Graci V et al., Utility of peripheral visual cues in planning and controlling adaptive gait.Optom Vis Sci 87, 21-27

対象は障害物のまたぎ動作です.類似の研究はいくつもあるのですが,この研究は下方周辺視野がまたぎ動作時の下肢の動きをオンラインで微調整することを示した点にあります.

視覚条件として下方周辺視野の制限,上方周辺視野の制限,周辺視野全体の制限,および視野制限なしの4条件を設定しました.下方周辺視野が制限される2条件では,およそ2歩前から障害物が視認できなくなります.

若齢健常者を対象として行った実験成果は,以下の通りとなりました.

まず,下方周辺視野が制限される2条件では,またぎ動作を大きくすることで接触を回避する方略がとられました.これは視認できない障害物に対して接触を回避するための積極的な動作修正といえます.当たり前といえば当たり前ですが,上方周辺視野制限ではこうした動作修正は起こりませんので,通路にある障害物に対しては下方周辺視野の有無が影響します.

関連して,下方周辺視野が制限される2条件では試行間の下肢動作のばらつきが大きくなりました.この結果から,下方周辺視野は動作を正確にコントロールできるように微調整するために必要なのだろうと考えられます.

ただし周辺視野が制限されても,段差に対するつまずきなどは起こりませんでした.つまり中心視野さえ制限されていなければ,またぎ動作時に障害物が視認できなくても正確に動作を遂行できます.こうした性質を,オンラインの視覚情報に基づかない制御,すなわちフィードフォワード制御といいます.

これらの成果を総合すると,通路にある障害物のまたぎ動作は,中心視野に基づくフィードフォワード制御により大まかにコントロールし,その微調整を下方周辺視野に基づきオンラインでコントロールしているといえます.このような教科書的な説明を実験的にわかりやすく示してくれたという意味では,貴重な資料といえます.

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