セラピストにむけた情報発信



立位姿勢制御に必要な注意資源:視覚の有無の影響
 (Remaud et al. 2012)




2013年4月1日

立位姿勢制御にどの程度注意資源が必要なのかという問題は,特に高齢者やリハビリ対象患者のバランス低下を考える上で,古くから検討されている問題です.今回ご紹介するのは,若齢健常者における立位姿勢制御において,注意資源が特に必要となる条件について報告した論文です.

Remaud et al. 2012 Attentional demands associated with postural control depend on task difficulty and visual condition. J Mot Behav 44, 329-340, 2012

検討の方法には二重課題法という,いたってオーソドックスな方法を用いました.

参加者には立位姿勢制御と同時に,音の呈示に対して素早く声で反応するという単純反応時間課題を行ってもらいました.ある姿勢制御条件下で,反応時間が統計的に有意に遅延したとすれば,その条件では立位姿勢制御に注意の資源が多く必要なのであろう(すなわち,立位姿勢制御に注意資源が必要だから,反応時間に割り当てる注意資源が少なくなり,反応時間が遅れるというロジック)と考えます.

立位姿勢課題の条件として,姿勢条件(両脚,タンデム姿勢,片脚の3条件),及び視覚情報の有無の2要因を操作しました.その結果,片脚姿勢でかつ視覚情報がない条件下でのみ,反応時間が遅延することがわかりました.

この研究の成果は大きく2つあります.

第1に,若齢者にとって立位姿勢を維持しながら単純反応時間課題を行うという行為は,それほど難しい事ではなく,注意資源の投入を必要としないという事です.よって実験結果全体を見れば,ある程度姿勢条件を難しくしても,反応時間の遅延は見られなかったと言えます.

第2に,難易度の高い姿勢条件下で視覚情報が利用できないと,若齢者であっても姿勢制御に注意資源の投入が必要となるという事です.つまり若齢者の場合,片脚立位姿勢のように不安定な姿勢条件下であっても,視覚情報さえ利用できれば,その情報に基づいて無意識的に姿勢が制御されますが,視覚情報が利用できないと,注意資源を投入して姿勢の安定に努めないといけないようです.

高齢者やリハビリ対象患者の立位姿勢制御特性を理解するにあたっては,そもそも若齢健常者はどのような立位姿勢制御特性を示すのかについての正確な理解が不可欠です.今回ご紹介した論文は,決して画期的な成果ではありませんが,ベースラインとしての若齢健常者の特性を知る意味では有用であるように思います.


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