セラピストにむけた情報発信



視線は歩行の先導役:視覚情報以外の重要な情報




2013年3月25日

歩行中の視線行動を観察すると,視線は常にこれから向かう先に向けられていることがわかります.例えば方向転換の際には体幹が方向転換し始める前に,視線および頭部が先行してその方向に回旋を始めます.また歩行路にある着地ターゲットに確実に着地する際には,やはり下肢がターゲットに向けて動き始めるのに先んじて,視線がそのターゲットに向けられます.

こうした視線行動の特徴について,英語では“We are looking where we are moving”あるいは逆に“We are moving where we are looking”と表現することがあります.

歩行中の視線行動がこうした特徴をもつことの機能は,単にこれから向かう先の視覚情報を得るという機能だけではありません.むしろ,視線を向けるために眼球をどの程度動かしたのか(回転運動させたのか)という情報を利用して,体幹の回旋を正確にコントロールするという機能が重要であるという考え方があります.

こうした機能の存在は,暗闇で方向転換をさせても(つまり視線を動かすことに視覚情報を得ることの意味はない状況においても),視線が先んじて回旋すること(Grasso et al. 1998),または着地すべきターゲットが一時的に見えない状況でも,ターゲットがあるであろう位置に視線の先導が起きること(Holland et al. 1996)によって実証されています.

この様な機能を知ると,歩行中に自由に視線を動かすことができる能力が,安全な歩行を実現するには不可欠という事になります.

リハビリテーションの場面では,歩行中の視線の動きが極端に少ない患者さん(床の1点を見つめているかのようにして歩いている人)が散見されます.こうした患者さんの場合,身体全身の機能向上もさることながら,視線を自由に動かすことができる能力を回復させてあげることも重要であろうと考えられます.

今年は歩行中の視線の役割について総説論文等を執筆する機会を頂戴しています.これらの論文の中でも,視線の先導が持つこうした意味について紹介する予定です.

【引用文献】
Grasso R et al, Eye-head coordination for the steering of locomotion in humans: an anticipatory synergy. Neurosci Lett 253, 115-118, 1998.

Hollands MA et al. Visually guided stepping under conditions of step cycle-related denial of visual information. Exp Brain Res 109, 343-356, 1996.


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