セラピストにむけた情報発信



本紹介「注意と安全」




2012年12月3日

本日紹介するのは,日本認知心理学会が監修する「現代の認知心理学」シリーズとして刊行された,注意に関する本です.

原田悦子・篠原一光(編)「注意と安全」.北大路書房.2011

この本は注意に関する「基礎」と「応用」の両側面について情報を提供することを主眼に置いています.注意の基礎理論に関する学術書は多数ありますが,応用に関して網羅的に扱っている本は限られています.本書はこの応用面について「安全」をキーワードにして体系的に章立てがなされ,多角的な情報が提示されています.

注意に関する研究は,認知心理学における代表的なトピックスであることから,特にこの30-40年の間に膨大な論文が出版されています.

実はこうした注意研究の大多数が,「選択的注意」の問題を扱っています.選択的注意とは,眼や耳などの感覚器官に対する膨大な入力情報の中から,重要な情報を選択し,高次の認知情報処理を効率よく円滑に行わせるための機能です.

拙著「身体運動学」においても第2章に注意の章を設けていますが,上記の研究動向を踏まえて,紹介されている情報は全て選択的注意に関する話題でありました.

しかし応用的な側面を考えれば,「分割的注意」と呼ばれる別の注意の機能にも着目する必要があります.分割的注意とは,有限である認知的資源(リソース)を適切に配分して,複数の認知情報処理を同時並行的に行うことに関わる機能です.たとえばマルチタスク条件下における高齢者の歩行と転倒に関する研究は,分割的注意に関する研究事例の一つです.

本書では,分割的注意について豊富な情報があるのが特徴です.心理学分野から出版される学術書において,分割的注意について多くの書面を割くものは珍しく,個人的にはこの点が,リハビリテーションに従事される方々にとっても有益な情報と思いました.

具体的な応用事例としてリハビリテーションに直結する情報は,高齢者に関する話題のみですが,一般的な議論としての「注意の基礎と応用」にご関心がある方々に対しては,お勧めできる1冊です.

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