2012年11月19日
今回は,私たちの研究室の最新業績の内容について報告いたします.
Higuchi T, Seya Y, Imanaka K. (2012) Rule for scaling shoulder rotation
angles while walking through apertures. PLoS ONE, 7(10), e48123, DOI:10.1371/journal.pone.0048123
PLOS Oneはオープンアクセスの雑誌につき,どなたでも論文をダウンロードできます.
従来,狭い隙間を通過する際に回避行動として行う体幹回旋行動は,隙間の幅と身体幅の相対値(しばしばπ数と表現されます)を知覚し,その値に基づき決定されると考えられてきました.
今回の論文では,実は回旋角度の調整自体は別のルールで決定されているということを,実験的に示しました.
もし私たちが隙間幅をπ数として知覚し,行動調節する能力を有しているならば,体幹の回旋角度はπ数との一次関数として制御すればよく,その制御はとても容易です.
しかしながら,実際には私たちの脳はそうした制御をしていません.というのも,単にπ数だけに基づいて回旋行動を制御すると,特に“身体+モノ”の状況で幅が広くなったときに,無駄な回旋をすることになるからです.
わかりやすい例として,肩幅40㎝の人が,長さ100㎝の平行棒を持って隙間を通過するとする.もしこの状況でもπ数が1.3の時に体幹を回旋するとすれば,平行棒の長さより30㎝も余裕がある空間で,体幹の回旋を始めることになります.これは,平行棒を持たない場合には空間の余裕が12㎝以下になったら回旋を始めるのとは大きな違いです.
こうした問題提起のもとでおこなった実験の結果,私たちの脳は,あらゆる“身体+モノ”の条件において必要最小限の空間マージンを作り出せるように,回旋角度を調節していることが分かりました.“身体+モノ”の幅が広いほど,任意のπ数の隙間に対して最小の空間マージンを生み出すために必要な体幹角度は,小さくて済みます.私たちの脳はこうした事実を織り込み済みであり,必要最小限の(すなわちエネルギー産生的に効率的な)体幹回旋を行っていることがわかりました.
この研究から派生するリハビリテーションの話題がいくつかあります.こうした話題については,今後の講演等を通してお示しする予定です.
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