セラピストにむけた情報発信



プリズム順応を利用した半側空間無視のリハビリテーション:
レビュー(Newport et al. 2012)




2012年11月12日

1998年にフランスのYves Rossetti氏が,プリズム眼鏡に対する順応を利用して半側空間無視の症状を改善できることについて,科学誌Natureに報告しました.これ以後,プリズム順応のリハビリ効果を追加検証する研究が数多く登場しました.本日紹介するのは,そうした研究の最新レビュー論文です.

Newport R, et al.: Prisms and neglect: what have we learned? Neuropsychol. 50: 1080-1091, 2012

率直に申し上げて,このレビュー論文は「素晴らしい」の一言に尽きます.

単に関連研究の包括的レビューをしているだけでなく,そもそもプリズム順応では何が起きているかといった基礎理論の説明から,なぜプリズム順応で無視症状が改善できるのかについての理論的展望まで,網羅的な情報が含まれています.この問題について先導的な立場で活躍している人にしか,書けない内容です.

この論文では, Rossetti氏のオリジナルの研究も含めて41の研究報告について,対象者数,コントロール群の設定の有無,プリズム順応セッションの長さ,順応の持続性の検証の有無の観点から概観しています.

これらの研究の9割に該当する論文は,プリズム順応のポジティブな効果を報告しています.しかしながら,特に研究者として重要な情報なのは,これらの研究の多くがプリズム順応を行う群だけで検証しており,副次的な効果の影響を排除するためのコントロール群を実験に含めていなかった,という点にあります.ケーススタディの論文が多いことも,こうした問題の背景にあります.

コントロール条件の設定に不備があると,論文で報告された効果が本当にプリズム順応の効果なのか,あるいは自然回復も含めた副次的な効果によるものなのかを科学的に同定することができません.Newport氏らはこうした現状について客観的に述べたうえで,プリズム順応の効果について希望的観測を述べています.

プリズム順応の効果がある程度見込める設定として,右偏寄の程度を大きくすることや(10度以下の設定で効果がなかったという報告があるため),プリズム順応のセッションをできるだけ長くすることなどの条件をあげています.

それ以外にも,他の治療法との組み合わせがより効果的なのかなど,様々な疑問について有益な情報が提供されています.こうした治療に精通されるセラピストの方には,必読のレビュー論文と思います.


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