セラピストにむけた情報発信



正確な着地を要求する歩行課題における視線行動と転倒リスク:
状態不安の関係(Young et al. 2012)



2012年10月9日

転倒リスクの高い高齢者は歩行中の視線行動に問題が見られることについては,何度かこのコーナーでも紹介してきました.

本日ご紹介する論文は,こうした視線行動の変化には,歩行課題に対する高い状態不安が関連しているかもしれないことを示した論文です.

Young WR et al. Influences of state anxiety on gaze behavior and stepping accuracy in older adults during adaptive locomotion. J Gerontol B Psychol Sci 67, 43-51. 2012

この論文は,イギリスのMark Holland氏のグループによる研究報告です.このグループではこれまで,転倒リスクの高い高齢者が,転倒リスクの低い高齢者や若齢者に比べて,着地すべきターゲットから視線を話すタイミングが早くなる傾向について,繰り返し報告しています.彼らはこの傾向を,早計な視線移動(premature gaze transfer)と呼んでいます. この課題については,拙著「身体運動学」の中でも紹介しています(p100-101).

今回の論文では,課題遂行に対する主観的な不安度が高いほど,早計な視線移動が速く生じることを報告しています.

この歩行課題では,正確な着地を要求するのに加えて,その先にまたぐべき段差を追加するなど,歩行の難易度が高くなります.難易度が高くなるほど,早計な視線移動傾向が高くなり,なおかつ状態不安が高くなるというものです.

測定変数間の相関を見てみると,状態不安の高さと視線移動特性には有意な相関関係が見られました.その一方で,状態不安の高さとターゲットに対する正確な着地能力については,相関がみられませんでした.従って,状態不安は視線特性を変えることで間接的に,この歩行課題に影響しているといえそうです.


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