セラピストにむけた情報発信



本紹介“ながら力”が歩行を決める:
自立歩行能力を見きわめる臨床評価指標「F & S」



2012年10月1日

マルチタスク条件下での歩行能力と転倒リスクとの関係性については,このコーナーでも何度か取り上げてきた話題です.本日ご紹介する本は,この能力を“ながら力”と表現し,一般の方々(セラピストではなく,リハビリを受ける対象者)を読者対象として執筆された本です.

井上和章 「ながら力”が歩行を決める:自立歩行能力を見きわめる臨床評価指標「F & S」」 協同医書出版.2012

厳密に言えばこの本は,リハビリ対象者が自立歩行能力を有しているかどうかを簡便に測定する方法について提案し,その根拠について一般の人に紹介するための本です.

著者が提案するのは,2種類の検査の組み合わせです.1種類目は,14種類からなるBerg Balance Scaleの中から選ばれた,4種類バランス検査です.もう1種類が,“ながら力”の検査です.

“ながら力”の検査として使われたのは,研究領域では大変有名な,”Stop walking while talking”という現象をテスト化したものです.この現象は,転倒リスクの高い高齢者は,歩行中に話をしようとすると立ち止まってしまうという現象であり,Lundin-Olsson 氏が報告した現象です.つまり,“話をしながら”歩行をする能力がなく,一度立ち止まらざるを得ない高齢者は,マルチタスク環境下の歩行能力が低下しているため,転倒しやすいというものです.

著者はこの検査を2種類目の検査として利用するため,様々な検討をしました.その結果,特に「昨日は何を食べましたか?」といった,エピソード記憶に関する質問をしている際に立ち止まりやすいことを確認しました.この現象は,個人的に興味深いと思います.

自立歩行能力をできるだけ簡便に設定しながら,なおかつマルチタスク条件下での歩行に関する評価を加える努力をしているという点で,意義深い知見と思いました.

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