セラピストにむけた情報発信



乳児の知覚判断:リスクの高い環境設定における測定の重要性




2012年4月10日

今回ご紹介するのは,乳児の知覚判断(いわゆるアフォーダンス知覚)の正確性に関する研究です.アメリカのKaren Adofph氏のグループによる論文です.

得られた結果は,単に乳児の知覚発達について情報を提供するにとどまらず,こうした知覚判断の正確性を測定するに当たっては,対象者が一定の危険を感じるような環境を設定することが重要であることを示していると考えています.リハビリ対象者も含めたあらゆる対象に対して,知覚判断の測定に興味がある方々には有用な論文です.

Franchak et al. What infants know and what they do: perceiving possibilities for walking through aperture. Developmental Psychology, in press.

対象者は17か月の乳児です.この月齢の乳児は,階段昇降ができるなど,環境に対して一定レベルの適応的歩行ができます.ただ,成人のように効率の良い行動ではありませんし,時にはとても危険な行動を選択することもあります.こうした日常経験から,17か月程度の乳児の知覚判断はそれほど正確ではないと考えるのが一般的かと思います.

これに対して著者は,乳児が危険を感じるような環境を設定すれば,そこで観察される乳児の知覚判断は正確であることを実験的に示しました.

観察した行動は隙間の通り抜けです.1つの条件(低リスク条件)では,2つの壁で非常に狭い隙間を作り,乳児に見せます.すると対象となった乳児の全員が,実際には通りぬけられない隙間を通り抜けようとして壁に挟まりました.

ところが,一方を壁ではなく開放空間にして,間違えると解放された側から装置の下に落ちてしまう状況(高リスク条件)にすると,16名の乳児のうち9名は,落ちてしまう条件では隙間に接近するものの,通り抜けようとはしませんでした.また実際に通り抜けることができる隙間幅であっても,通過可能な幅ギリギリであれば通り抜けしようとしない乳児もいました.

こうした結果から,一般的な行動観察の場面で乳児が危険な判断を選択してしまうのは,必ずしも知覚判断が不正確だからというわけではなく,その行動を選択したことによるリスクが少ないからである,と著者たちは結論づけました.

このような結論は,高齢者や脳卒中患者など,知覚判断が正確ではないと考えられているリハビリ対象者にも当てはまるかもしれないと感じました.

臨床場面にせよ実験場面にせよ,対象者の行動を観察したりデータを測定する際には,対象者の安全を確保することが重要です.したがって,実環境に存在しうる危険な状況をそのまま適用することは困難です.しかし今回の実験結果を考えると,対象者が実環境において実践しうる知覚判断を正確に把握したいならば,ある一定のレベルで実環境-実環境で生じうるリスクも含めて-を再現する努力が必要だなと,改めて感じました.

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