セラピストにむけた情報発信



スノーボードのターン動作に学ぶ運動支援




2012年3月1日

今年も例年同様, 2月19-23日のスケジュールにてスノーボードの教習を担当いたしました.今年は生まれて初めてスノーボードを経験するという初級者コースの学生をサポートしました.私にとって貴重な運動支援経験の中で,今年はスノーボードのターン動作の習得について,支援者の観点から雑感を述べたいと思います.

ターンを行う際には,そのきっかけ動作として,事前に膝関節や足関節を曲げることで重心を下げます.そこから一気に身体を伸ばして前足に重心を移動させ,なおかつボードを斜面に対してフラットにすることで,ボードの先落とし(ノーズドロップ)が始まり,ターンへとつながります.

この一連のきっかけ動作は,スムーズなターンをする上で重要な技術であるため,かなり長い時間をかけて指導をします.しかし初心者にとってはこのきっかけ動作をマスターするのが難しく,これが“壁”となってなかなか思い通りのターンができない人がたくさんいます.

今年の学生が苦労したのは,一連のきっかけ動作のうち,適切なタイミングで身体を引き伸ばす動作をおこなうことです.この動作は抜重動作と言います.

抜重動作がうまくできない理由は様々でした.

最も多かったのは,そもそも事前の姿勢が腰から折れ曲がる「くの字姿勢(へっぴり腰)」になっている,というものでした.この姿勢の場合,引きのばす動作をしても,単にまっすぐに立つ姿勢に戻すだけであり,十分な抜重になりません.

この問題において厄介なのは,本人がこの問題を自覚しにくいことです.視覚的に見れば,くの字姿勢からまっすぐな姿勢に戻せば,抜重動作と同じような,上下動する視覚情報が入ってきますので,本人はあたかも「自分は抜重動作ができている」と感じてしまいます.こうした問題を抱える学生の場合,ビデオ映像などを使って客観とのずれを認識させ,もともとの姿勢を変えてあげる必要があると考えました.

こうしたビデオ撮影を用いた指導は,確かに一部の学生には確実に有効でありました.ただし同じ問題を抱える学生の全てに有効というわけではありませんでした.残念ながら,何がこうした指導法の成否を分けるのかについて,特定することはできませんでした.

今回私が一番勉強になったのは,何度指導しても抜重動作が見られない学生とのやり取りでした.

最初にこの学生の動きを見たとき,私はこの学生が抜重動作の意義を十分に理解せず,抜重動作に取り組んでいないのだと考えました.そこでこの抜重動作の必要性を十分に説明し,個人指導しました.しかし,やはり抜重動作は簡単には引き出されませんでした.

その後,リフトに乗る時間などを利用して何度かカウンセリングを重ねたところ,本人から,「もともとの姿勢で膝が突っ張っていて,身体が上に伸びないのかも...」という言葉が出てきました.

実際のところ,見かけ上はそれなりに膝も曲がっており,この問題を認識できなかったのですが,本人の主観に沿って滑っている時の膝の姿勢を変えてあげたところ,確かに緩斜面では抜重動作ができるようになりました.

巨視的に見れば,この問題も「くの字姿勢」の問題と同様,そもそもの滑走姿勢に原因がありました.しかし両者は見かけ上の問題も,またその問題を解決するためのアプローチも異なります.特に,2番目の例の学生の場合,様々なやり取りの中で学生自身が問題に気づき,フィードバックしてくれたことで,初めて適切なアプローチ方法にたどりつくことができました.

私にとってのスノーボードのように,指導経験が浅い中で適切な運動支援をおこなうためには,支援対象者とのコミュニケーションの中で,支援対象者の持つ問題を探ることが重要なのだと感じました.



実習場所である長野県の戸隠高原は,最終日を除いて晴天に恵まれ,充実した日をすごすことができました.



 教習した学生たちと一緒に記念撮影
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