セラピストにむけた情報発信



運動の多様性練習の効果2:新しい解釈 Huet et al. 2011




2012年2月24日

昨日までスノーボードを指導する立場として長野におりました.毎年のことながら,この実習では運動の学習を支援することに置いて様々な知識を学びます.次回,そのご報告をしたいと考えております.



前回,運動の多様性練習の効果に関する一般的な考え方を説明いたしました.今回は,新しい解釈を提案した論文をご紹介いたします.

Huet M. et al. The education of attention as explanation of variability of practice effects: learning the final approach phase in a flight simulator. J Exp Psychol: Hum Percept Perform 37, 1841-1854, 2011.

この論文では,多様性練習が効果的なのは,「学習に最適な情報を選択する確率を高めるためだ」と説明します.

学習初期のころは,どのような情報に基づいて学習をすべきかわからないため,ともすれば誤った情報を参考に学習しているかもしれません.学習初期に同じ条件をひたすら繰り返す学習方法(constant practice)の場合,学習に最適な情報を見出す確率を低くさせてしまうので,結果として学習した内容が保持・転移できない,という説明です.

この考え方は,生態心理学的な発想に基づいています.生態心理学では,学習者が知覚―運動行為を遂行するうえで,獲得すべき情報を最適なものに変化させていくプロセスのことを,この論文のタイトルにある「Education of attention」と呼びます.

あいにく,Education of attentionという言葉に対する最適な日本語訳が浮かびませんが,「行為遂行に重要な情報をピックアップしていく(すなわち最適な情報に対して注意が向けられる)には,一定の学習経験が必要である(すなわち学習を通して選択の過程が洗練されていく)」ということが,表現の背景にあると思います.

論文では,飛行機の着陸をバーチャルに表現したフライトシミュレータを使って2つの運動学習実験を行っています.

論文では第1実験において,この実験環境においても多様性練習のほうが転移の成績が良いことを確認しました.その上で第2実験では,着陸を成功させるのに重要な情報のうち,1つを固定した条件で多様性練習をおこなうと,転移課題において固定した条件が変動性を持った場合に対応できなくなった,ということを報告しました.

率直に言って,これらの結果そのものは必ずしも「Education of attention」だけでしか説明できないものではありません.ただし考え方として,これまでの一般的説明である「複数の異なる条件間のルールを学ぶこと」が重要なのではなく,「多様な情報の中から最適な情報をピックアップさせる機会を提供すること」が重要なのだ,という考え方は,興味深いと感じました.

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