セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者にみられる歩行中のすくみ足に関する調査研究
Rahman et al. 2008



2012年1月16日

今回も前回と同様,パーキンソン病患者の歩行障害に関する論文の紹介です.今回ご紹介するのは,歩行時にみられるすくみ足が起こる場面や,すくみ足を克服する方法に関して,患者さん自身から聴取したアンケート結果をまとめたものです.

Rahman S. et al. 2008 The factors that induce or overcome freezing of gait in Parkinson’s disease. Behavioral Neurology 19, 127-136.

調査対象者はパーキンソン病患者130名でした.(平均66.7±8.52歳,男性が84名).調査結果を見ますと,対象者の72%がすくみ足を経験したことがあり,さらに対象者の42%は1日に最低1回はすくみ足を体験すると報告しました.

これらの数値はいずれも,過去の類似調査に比べれば非常に高い数値といえます.著者らはこの結果について,今回の調査対象者がいずれも運動障害クリニックに通う患者であり,日常から様々な運動障害を抱えていることから,すくみ足を経験する割合が極端に高かったのだろうとコメントしています.

すくみ足が生じる場面や要因について,最も回答が多かったのは,方向転換という環境性の要因と,疲労という内因性の要因であり,いずれも対象者の58.5%が,この2つが原因ですくみ足が生じたと回答しました.人ごみのように狭い隙間を通り抜ける場面でも,対象者の半数近くがすくみ足を経験していました.

患者さんによっては,このすくみ足はパニック障害と同タイミングで生起すると回答している方もいらっしゃるようで,こころの状態との関係性も無視できないように思います.

このすくみ足を克服するために患者さん自身が意識されている方略として,比較的回答が多かったものは,歩行の各ステップに対して注意を払うこと,歩幅を長くすること,歩行時の荷重位置を調節したり,足をやや高く上げたりするといったものでした.これらの報告をみると,歩行中の1歩1歩を意識的にコントロールすることが,すくみ足を克服する有益な手段と見ることができます.

1歩1歩を意識的にコントロールしながら歩くというのは決して容易なことではなく,非常に労力を要する作業です.しかし,そうした作業によって疲労してしまうと,この疲労状態がすくみ足を誘発しうるわけですから,患者さんにとってこの問題を克服するのは容易ではありません.

今回の調査研究のように,比較的大人数の患者さんから運動障害に対する主観的情報を得ることは,その運動障害に実験的にアプローチするうえで,有益な基礎資料となりえます.特に私のように臨床の現場に直接携わらない立場の研究者にとっては,とても貴重な情報でありました.


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