セラピストにむけた情報発信



実験機器紹介:ムービングドア




2011年12月19日

今回は,私たちの研究室で主力機器として活躍している,可変式ドア(通称ムービングドア)についてご紹介します.

ムービングドアの主目的は,2枚のドアの位置を操作することで,様々なサイズの隙間を呈示することにあります.実験参加者がこの隙間を通り抜ける際に選択した回避動作を,モーションキャプチャシステムにより3次元的に解析します.得られた結果に基づき,歩行中に知覚された空間と身体の関係性についてアプローチしています.

ムービングドアの最大の特徴は,光学センサを利用することで,実験参加者がある地点を通過した時に,位置を移動できる点にあります.これにより,歩行中に突然隙間の大きさが変化した時に,実験参加者がどのような適応的動作を選択するのかについて,詳細に検討することができます.歩行中に動的に変化する空間を実験室的に作り出すことができるというのが,このムービングドアの最大の売りであります.

もともとこのムービングドアは,私がポスドクとしてお世話になりました,カナダのウォータールー大学姿勢歩行研究室のAftab E. Patla教授(2007年に逝去)が作成されました.Patla教授と,そのお弟子さんで私の共同研究者でもあるMichell Cinelli氏(現在カナダのWilflid Laurier大学)は,このムービングドアを周期的に動かすことで,環境の変化に対して予測的に適応する能力に着目した研究を行いました(参考文献はこちら).

これに対して私たちの研究室では,歩行中に不意に歩行進路が妨げられるような状況を作り出すことで,瞬時にそうした状況を回避する能力に着目した研究を行っています.この1年で様々な実験を行いましたので,もうすぐその成果や意義をお伝えすることができそうです.

このムービングドアを使った歩行実験は,基礎研究だけでなく,マスコミ各社への取材協力を通した社会貢献にも役立つようになりました.具体的には,携帯電話やポータブルゲーム機器を操作しながらの歩行の危険性について,「不意に動くドアへの対処が明らかに遅れる」という映像を通して,比較的一般の方にわかりやすい映像を提供することができました.

私にとっては,このムービングドアを利用した研究成果を数多く公表することが,志半ばにして病に倒れたPatla教授の遺志を継ぐ方法の1つと考え,研究室における重要な柱と考えています.

このムービングドアは,内田電子株式会社様のお計らいにより,特注品として作成していただきました.細部にわたってこちらの意図を組んだ装置を,リーズナブルな価格で提供してくださいました.この場を借りて感謝を申し上げる次第です.


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