セラピストにむけた情報発信



東京都リハビリテーション病院,院内研修会




2011年11月28日

11月22日に東京都リハビリテーション病院にて,院内研修会の講師を担当いたしました.「歩行の視覚運動制御」というタイトルのもと,2時間にわたって話題提供をしました.

当日の研修会には,以前からお世話になっている林陽子先生がご参加くださり,私の報告内容に対する貴重なコメントをいただきましたので,この場で紹介させていただきます.

講演の中では話題の1つとして,修了生の吉田啓晃君がおこなった「脳卒中片麻痺患者における歩行中の視線の役割:下方へ向ける理由」に関するデータを報告しました.

このデータは,脳卒中片麻痺患者さんの中には歩行中に下向きで歩く人が多いという経験的事実について,これが統計的に正しいか,またその原因は麻痺側下肢の視覚的代償といえるかどうかについて検討を加えたものです.下を向くために頭部を前傾させることが,腰椎屈曲(骨盤後傾)など全身のアライメントに悪影響を及ぼし,歩行機能に悪影響を及ぼすかもしれないというのが,この研究のモチベーションとなっています.

その中で私は以下のようなコメントをしました.「患者さんの中には,すでに視覚的代償の必要もなく,前を向いて歩けるだけの歩行・運動機能を有しているにもかかわらず,昔の悪癖を引きずっているため(すなわち,下を向いている姿勢が本人にとってノーマルな姿勢として図式化されているため),頭部前傾によるアライメントの問題を引き起こす可能性があるかもしれない.」

林先生は,こうした発想そのものが末梢レベルの患者さんの問題にも成り立ちうるのだということをご指摘くださいました.林先生によれば,頸椎症患者さんの中でも特に頸椎カラー装着後の患者さんや,変形性股関節症,変形性膝関節症の患者さんの場合,方麻痺患者さんとは逆に,胸椎伸展に伴い頭部を後傾させる様な姿勢からの脱却ができない場合があるそうです.こうした姿勢の場合,前を向いて歩くためには眼球を下制させて歩くことになります.

林先生ご自身が関わった患者さんの中には,こうした負の運動連鎖に基づくアライメントを立位姿勢保持のレベルで修正してあげても,歩行時にはまた元に戻ってしまうことや,頭部をノーマルな位置に補正した結果として眼球の下制を抑えてあげると,「目玉が疲れる」と言った方もいらっしゃったようです.

林先生のコメントは,吉田君のデータに基づき私たちが考えてきたことが,中枢レベルの患者さんだけでなく末梢レベルの患者さんにも適用できる可能性を示してくれました.運動機能・感覚機能が正常なレベルに改善できたとしても,改善前に作られた身体図式・イメージをノーマルな状態に近づけるようなサポートを合わせておこなわないと,歩行機能そのものは改善されないケースもあることを,教えていただきました.

(メインページへ戻る)