セラピストにむけた情報発信



首都大学東京OU講座「知覚認知とリハビリテーション」 vol.1




2011年8月9日
8月7日に首都大学東京飯田橋キャンパスにて,リハビリテーション従事者を主対象とした講座を担当いたしました.

今回は,日本学術振興会特別研究員として国立長寿医療センターにて研究されている,牧迫飛雄馬先生を外部講師としてお招きしました.牧迫先生は,高齢者が運動を継続的に行うことが,認知症予防に寄与するかという研究に携わり,数多くの成果を発表されています.

以下では,牧迫先生をお招きした経緯,ならびに牧迫先生のご発表内容の一部をご紹介いたします.

私が拙著「身体運動学」の発刊以降,メッセージとして発信してきたのは,「知覚認知機能と運動機能の不可分性・互恵性」です.すなわち,2つの機能を不可分な一つのシステムと捉えることにより,①「知覚認知に介入することで運動が変わる」,および②「運動機能に介入する(あるいは運動をする)ことで知覚認知が変わる」という発想のもとで研究をしていきたいと考えています.

私が研究で直接に携わっているのは,上記の①の考え方に限定されています.従って,リハビリ従事者の方々を対象として講演等を行う場合も,①の話題に限定されてしまいます.

今回牧迫先生をお招きした理由は,牧迫先生が②の問題について精力的に研究をし,話題提供ができる方であったことにあります.



牧迫先生の講演では,国立長寿医療研究センターで所属されているグループ全体の取り組みであります,認知症予防としての運動の効果の取り組みについて話をされました.

高齢化が進む中で,認知症の発症を予防する対策が重要であることは言うまでもありません.国立長寿医療研究センターの試算によれば,2010年における認知症の患者が208万人に対して,2030年には350万人と増えていきます.こうした状況に対し,仮に認知症の発症を高齢者個人として2年遅らせることができたら,患者数を16万人減少させることができ,なおかつ5600万円の医療・介護費用削減効果が期待されるそうです.

認知症予防に向けた対策として国立長寿医療研究センターでターゲットにしているのは,「軽度認知障害(Mild Cognitive Imparement: 以下,MCI)」という,いわば認知症の予備軍といわれるタイプの高齢者です.

MCIを大枠として定義すれば,日常動作は十分に自立しており,明らかな認知症ではないけれども,年齢に比して認知機能の低下が見られる,となります.

高齢者の5-7%がMCIと推定されるそうですが,その中でも特に記憶力が必要とされるような課題が苦手な場合には,アルツハイマー型の認知症に移行するリスクが高くなるようです.

ある年齢の段階でMCIと診断されても,3年後に再検査すると,3割の方は問題なしと診断されるとのことです.もしこうした3割の方が,日ごろの生活習慣の改善によって,認知機能の問題が改善できているとすれば,継続的な身体運動は,こうした改善の要因として寄与できるのかというのが,研究上の重要な問題となります.

こうした背景のもとで,牧迫先生ご自身の研究について解説がなされました.少し長くなりそうですので,続きは次回にご報告いたします.


(メインページへ戻る)