セラピストにむけた情報発信



身体運動学セミナーⅢ in 埼玉「知覚・認知と身体運動の基礎と応用」
~疼痛・上肢機能・歩行に対するアプローチ~




2011年6月6日
6月5日に,第三回の身体運動学セミナーが開催されました.(第1回第2回の情報はそれぞれリンク先をご覧ください.)

今回の特徴は,著者である森岡周先生と私に加えて,痛みの研究で著名な住谷昌彦先生(東京大学)が発表者に加わったことにあります.住谷先生が痛み,森岡先生が上肢,そして私が歩行というテーマで,それぞれが知覚認知と運動の関連性について話題提供をしました.

またこれらの話題に引き続き,関連する臨床報告として,生野達也先生もご発表されました.

今回は,住谷先生のご講演内容の概略をご紹介いたします.
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住谷先生は,痛みが末梢の侵害刺激の受容だけで生じるわけではなく,非侵害刺激に対する認知的な意味づけによっても生じうることに着目しました.

本来痛みとは,侵害刺激から身を守るため,すなわち自分の身体を防御するためのシステムとして機能しています.しかし実際には,そうした刺激がないにもかかわらず生じる痛み(病的疼痛,神経障害性疼痛)が,多くの患者さんを苦しめています.

実際,物理的刺激があってもなくても,痛みに関連する脳の反応は同じであることから,住谷先生はこうした病的疼痛をいかに除去するかという観点から,研究をされています.

住谷先生が特に対象とされているのは,CRPS(Complex Regional Pain Syndrome,複合性局所疼痛症候群)です.CRPSは,些細な外傷後に強い痛みを呈することを特徴としています.痛みに加え,浮腫,発汗異常,委縮性変性など,様々な症状が複合的に生じるとのことです.

CRPSの原因は様々ですが,住谷先生はその中でも不動化(immobilization)の後に生じる大脳の可塑的変化に着目しています.

骨折などの障害の後は,治療上必要な行為として,不動化の期間が生じます.住谷先生は,この期間が必要以上に長い場合に,それに関わる脳の可塑的な変化が生じて,痛みが発生するのではないかと説明しています.

実際,基礎研究を見ると,健常者を対象に一方の腕を一定期間不動化させると,患測の皮膚感覚(二点弁別閾)の低下や,皮膚温の変化などが生じます.さらに,不動化後の脳活動を観察すると,健常者に対して実験的におこなう不動化であっても,一次体性感覚野の書き換えが生じていることがわかりました.

以上のことから,CRPSの原因の1つとして,一定期間の不動化によって生じる脳の体性感覚野のマッピングの変化を考えるのは,妥当な考えのように思います.

実際,CRPSの患者さんに対して,不動化していた腕に体性感覚刺激を与える訓練をおこなうことにより,体性感覚野の再マッピングがおこり,痛みが改善されるそうです.

また住谷先生は,CRPSに対する治療方略として,神経ブロックに基づく治療のあとで,関節可動域訓練といった適切なリハビリをおこなうことにより,一次体性感覚野のマッピングを適切に広げることを考えています.

この発想は,リハビリを通して運動をするということが,痛みの軽減に効果的であることを示しています.

さらに住谷先生は,プリズム順応によって視覚入力を矯正することで,痛みが緩和されるなど,視覚に介入した画期的な方法を紹介しています.

こうした発表に関する詳細は,過去のページをご覧ください.

以上のように,痛みが大脳の認知的意味づけにより起こっていること,並びにそうした理解に基づき痛みに介入することで,CRPMの痛み改善につながっていることを,わかりやすくご説明してくださいました.


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