セラピストにむけた情報発信



荷物を持って段差をまたぐことの認知的負荷:Hawkins et al. 2011




2011年5月6日
健常な若齢者は,バランス良く歩くことに対して,別段注意を払う必要がありません.これに対して転倒リスクの高い高齢者は,歩くことに注意を集中しないとバランスを維持して歩くことができません.このため,通路にある障害物を回避するといった負荷が加わると,歩行の制御が大変難しくなります.

本日ご紹介する論文は,荷物を持つことがもたらす認知的負荷について,段差をまたぐ場面において検討した論文です.

Hawkins et al. Attentional demands associated with obstacle crossing while carrying a road. J Mot Behav 43, 37-44, 2011.

実験対象者は若い大学生でした.中型の段ボールサイズの荷物を両手で抱えた状態で,高さ20cmの段差をまたいで回避する歩行課題が,実験課題でした.6割の実験試行では,段差をまたぐ瞬間に刺激音が呈示されました.参加者は,安全に段差を回避しながら,刺激音に対してできるだけ素早く声で反応することが求められました.音に対する反応時間が長くなった場合,それだけ段差をまたぐ課題に認知的負荷が高まったのだろうと解釈できます.

実験の結果,荷物を持つことで,刺激音に対する反応時間は有意に遅延しました.この遅延は,荷物の重さが重くなるにつれて遅くなりました.これらの結果から,①荷物を両手に抱えて歩くことそれ自体が,歩行中のバランス維持のための認知的負荷を高めること,②荷物の重さが重くなるにつれて,その認知的負荷はさらに高くなる,ことがわかります.

荷物を持って歩くという行為はきわめて日常的な行為です.大学生であっても認知的負荷が高まるのですから,高齢者やバランス障害を持つ人の場合には,そのインパクトはさらに大きいものと予想されます.

筆者らは,荷物の重量がもたらすインパクトだけでなく,荷物によって足もとが隠れることのインパクトが大きいのだろうと主張しています.残念ながらこの実験では,重量負荷の影響と視野制限の影響を独立してコントロールしていませんので,このような著者の主張は推測にとどまります.ただし,前回まで紹介してきた視野制限の問題を考えると,視野制限がもたらす影響を想定しても良いだろうとは思います.



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