セラピストにむけた情報発信



スノーボードと運動学習



2011年2月24日

私は毎年この時期に,スノースポーツ実習という実習授業のスタッフとして,長野県の戸隠高原にてスノーボードの教習を担当します.今年度は2月19-23日,4泊5日のスケジュールで実習が実施されました.

この実習は私にとって,実践的レベルでの運動学習の諸問題について深く考えることのできる,大変貴重な場であります.スノーボートの話題が,セラピストの皆様にとって直接的関心がないことは十分認識しております.ただ,対象者の運動技能をいかに効果的に支援するかという問題は,リハビリでもスポーツでも同じです.普段,研究レベルの基礎的知識しかご提供できない私が,唯一実践経験について私見を述べることができる話題として,ご覧いただければ幸いです.

理論的に,スノーボードにおけるスムーズなターンとは,角付け(エッジング),荷重,体幹のローテーション,という3つの要素を効果的に行うことにより実現されます.

この実習の対象者は大学生ですので,こうした理論的知識を徹底的に植え付けます.またこの理論的知識を実践で活かすためには,膝関節や足関節を適切なタイミングでダイナミックに動かすことが重要であることを力説します.

本学の学生は非常にまじめな学生が多く,こうした理論に真剣に耳を傾け,雪上で実践しようと一生懸命に努力します.ところが・・・,ここで学生にとって大きな壁が立ちはだかります.それが,身体・動作にとっての主観と客観のずれの問題です.

例えばターンを行う際には,そのきっかけ動作として,事前に膝関節や足関節を曲げることで重心を下げます.そこから一気に足を伸ばして前足に重心を移動させることで,ボードの先落とし(ノーズドロップ)が始まり,ターンへとつながります.

初中級レベルの学生にとっては,ボード上で膝関節や足関節を曲げることが大変困難です.このため,体幹を前傾する「くの字姿勢」から正中に戻す動作を,代償的に繰り返します.確かにこの動作も重心の上下動を実現させる動きではありますが,重心が上下動している空間位置が,ボードをターンさせるための最適位置とは全く異なるため,スムーズなターンを引き出してはくれません.

ここでの重要な問題は,体幹がくの字姿勢(へっぴり腰)になっていることを,本人が全く自覚していないことです.自分自身ではまっすぐボードの上に立っているつもりでも,実際には恐怖心も相まって,くの字姿勢でボードに乗る初中級者が大勢います.

ビデオ撮影をすることで,姿勢に関する主観と客観のずれを自覚させることは,こうした問題の克服の第1歩としては大変有効です.しかし,観察それ自体は,いかにしてこのずれを修正するのかの具体的方法を教えてくれません.学生自身が探索的にこの解決法を発見しなかった場合,こちらから最適と思われる改善法を提供し,どのように動きが変容するかを注意深く見守る必要があります.

指導者一人に対して5人以上の学生でグループを組むため,どの学生に合わせて指導を進めていくのかなど,悩みは尽きませんが,大変やりがいのある仕事として自分なりに情熱を注いでいます.これから先の具体的な指導法については,ご関心のある方と個人的に議論できれば幸いに存じます.

昨年も同様の報告をしておりますので,興味のある方はご参照ください.私自身にとっては,実習を通して感じたことが昨年と今年で微妙に変化していることに気づき,この1年間の様々な経験や獲得した知識を振り返る良い機会になりました.



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